[携帯モード] [URL送信]
君はひとりしかいない



※現パロ



無作法に押し込まれた無数の書籍。埃がかぶり、逆向きに入っている本すらある。
ほんとにこんなに読んだのだろうか、小説もあれば学術書までジャンルは様々でこいつの無頓着な性格がよく伺える本棚だ。
同棲して間もない頃は俺がキレイにしてやったが、どんなに直してもすぐがさつに本を押し込む兵助に、さすがの俺も折れ今ではこの有り様だ。

今思えば、本の虫だった兵助は文字通り、本が好きだったのだ。
この変わった男の頭の中には無数の言葉が飛び交っていて、それをどうにかして紡ぎ、形にしたかったのだろう。


久々知兵助という男はキレイな顔立ちで、成績も良いがどこか自分の世界にいる、そんな奴だ。
俺たちは高校3年の時に出会い、意気投合し仲良くなった。あまり多くの人間に心を開かない俺にとって数少ない本音が喋れる奴だった。

その後同じ結構名の知れた大学に入った。
大学のやつらは表面上は波を立てていないが、腹の中ではお互いを貶し合うやつばかり。
相手を貶めることで、自分は変わってないのに自分が高くなったと勘違いをする、そして明らかに自分には適わないと思ったら犬っころのように尻尾をふるのだ。そんな腐ったがり勉野郎の集まりのように思えた。兵助はそんな集まりに早々にに嫌気がさし、悪態をついていたら、「変わり者」「変な奴」「暗い奴」など陰口をたたかれ、相手にされなくなった。

俺もそんな大学が嫌になり、兵助とばかりいることが当たり前になり、兵助と一緒に住むことになった。そして、兵助と関係をもつようになった。必然のことだったし、何より俺が兵助を必要としてた。


その頃からだ、兵助が小説を書き始めたのは。

「俺、昔から小説家になるって決めてたんだ。」
なんてそんな夢のような話も兵助が言うのなら、なるんだろう。と確信している自分がいた。

「そっか、がんばれ。いつか俺とのラブストーリーも書いてくれな」と言うと、
ばあか、なんて少し笑って言う兵助が愛おしくて、愛おしくて、俺にはこいつがいないとダメだなと思った。


兵助が真剣に小説を書き始めてから半年。兵助の書いた小説が賞をとり、雑誌に掲載された。俺は兵助が認められたと本当に嬉しかった。
大学の教授達や金魚の糞のような学生達が兵助の周りに群がり始めた。以前は兵助を変わり者だとバカにしていた奴らも翻したように媚びを売り始めた。兵助が眉間に皺をよせ、子供が嫌いな食べ物とにらめっこするようにそいつらを見るもんだから思わず笑ってしまった。
「兵助お前大丈夫か」
「いや、まじ無理」
「てかお前あからさまに嫌な顔しすぎ」
頬を緩ませながら、兵助の頬を指で挟めば、ふ と少し笑って


「俺、みんなに必要とされなくていい。お前が俺を必要としてくれれば、それでいい。」


なんて


くっそ、お前それ卑怯だろ。お前の良いところもお前の悪いところも全部俺のもんだ。
誰にもやんねえからな。




みんなに認められる必要なんてない、ただ 誰かが僕を必要としていてくれるのならば





君はひとりしかいない


0427
変わり者久々知と意外とまともな鉢屋


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!