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かくれんぼ(雷久々雷)

※大正パロ
主従もの



優しい風が吹いた。少し小高い丘から町をぼんやりと見渡していた。何をするわけでもなく、ただただ時間だけが過ぎていった。

日が家屋に隠れはじめた。橙色のそれは何百年も前から変わらず光をさしていると考えると、なんとまあ幻想的な話何だろう。

「雷蔵さま」

「あれ、兵助よくここがわかったね」

「雷蔵さまあなたはご自分の立場をお分かりになってください。このように勝手にどこか行かれては皆が困ります。」

そんなありきたりな言葉何度聴いただろう。たかが財閥の一人息子。名前があるのは某であって僕は僕だ。ただの一人の人間だ。

「何をしていたのですか」

「何もしたくなくなったから、」

兵助が困るような言葉を落とし、様子を伺う。兵助はやはり少し眉をさげ慈しむような眼をこちらに向けた。

「それでは、私も少し暇をいただきますか」

そう言って私の横に腰を下ろした。風にのってゆっくりと走る車のエンジン音と缶蹴りをしている子ども達の笑い声が僕らの耳に届いた。

号外、号外と叫びベルを鳴らす者もいれば、下駄をカラカラと響かせせわしく走る者。

そんな姿を目で追い、耳で感じていると先程までこのたくさんの人間達の傍観者となっていた自分も

―このたくさんの中の一人なのだ

とふと思った。悪い気持ちはしない。むしろそれが誇らしく感じた。


「また一人で考えごとですか」

「なにそれ。僕がいつも悩んでるみたいな言い方だね」

「違いますか?」

「違わない。けど僕は自分の利益になることしか考えごとしないよ」

「左様ですか」

「でも、兵助はさ」

ふと言葉を塞いだ。

兵助は―


その先に続く言葉は僕の権力を駆使した我が儘でしかないのだ。

「私がどうかしましたか?」

「なんでもないよ」

兵助、何で僕とお前はこんな関係なんだろう。お前はお金さえ持っていれば僕の家でなんか働かないんだろ。
僕の、面倒な僕の世話なんかしないのだろう。


力を使いたくはない。しかしお前が愛おしくて時々、力で物を言わせ抱きたくなるんだ。
僕はお前をこんな風に見ているんだよ。ねえ、兵助なんでお前の身分は僕より低いんだい?
何故身分が低いお前を好いてしまうとこんなにも罪深くなってしまうんだい?


「肌寒くなってきましたね。雷蔵さまそろそろ家に帰りましょうか。」

「そうだね」

ずっと、ずっと此処にお前といれば

家柄とかそんなしがらみに捕らわれることもないのだろうか。


ずっと此処に居よう、と言うことは力を使うということなのに。矛盾も甚だしい。


「ねえ、兵助。なんでお前は此処がわかったの」

少し驚いた様子を見せた後「愚問ですね」と呟いた兵助は、いつもの困った顔ではなかった。目尻に皺をつくり、この夕焼けのように穏やかな目をしている。

「雷蔵さまのこと、私が分からないことなどありましょうか。


私はいつだって雷蔵さまのことしか考えていないのですよ?」



残念ながら僕はお前のことが分からない。その言葉の裏にあるのはただ一人の人間に対してなのか、ただ主ということなのか。


お前のその気持ち、主に対してのものでもいいんだ。


今はただ、お前が見つけてくれるのなら





何処にだって行ってやろうか。



かくれんぼ











(さあ、あなたはいつまで俺の気持ちを疑い続けるのですか?)





0628
俺もあなたが好きなんですけど



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