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隣り(夢前と兵伝)

※現パロ、高校生とか
ほんのり兵伝なからくりコンビのお話



兵太夫は子どもの頃からいつも僕の隣にいた。兵太夫はきつい言葉を吐く性格だからよく思わない人も少なくなくて。だから僕はそのフォローをする役目だった。
僕は知っていたんだ。兵太夫は本心でそんな言葉を吐くわけじゃないってこと。相手が本当に自分のことを嫌わないか、どこか確かめている節があるってこと。
だから言い過ぎたって後悔して僕に相談してくることもよくある。そう、兵太夫は人との付き合い方が下手なんだ。


僕は心配だった。兵太夫のそんな天の邪鬼な性格を理解してくれる人なんているのかな。僕だけだったらどうしよう。兵太夫のよさ、たくさんあるのに。みんなにみんなに分かってほしいのに。気付く前に離れてしまうんじゃないかって。


そんな心配ごとを抱えたまま大きくなった僕は、今も兵太夫の隣りにいる。

「…さんじろー」
「なあに、兵ちゃん」
「伝七が怒ってる」
「ふーん。そう」
「ふーん、って!三治郎なにそれー」

だってそんなの日常茶飯事じゃないか。兵太夫が伝七を怒らすのなんて僕らがする挨拶のようなものだ。
僕はそんなに深刻なことじゃないよね?と言いそうになるところをあえて言わずに濁した表現を使った。

「いいよ。三ちゃんの言いたいことなんて分かってるもん。でも今回はいつもと違うんだよ。伝七さ、明らかに怒ってるのに怒ってないっていうんだよねー」
「心当たりは?」
「有りすぎて分かんないよーそんなの」

兵太夫はお手上げと言った状態だ。そして机にうなだれ今日行った悪事の数々を思い返しはじめた。指は片手で足りないようだ。伝七も気の毒だなあ。
兵太夫の悩みは分かる。兵太夫がからかって怒らせたのなら、伝七のあの性格だ。お前が悪いんだろ!とか何とか言いそうだ。なのに怒ってないなんて(実際怒っているのに)いうから兵太夫は困惑しているんだ。

「僕が原因じゃないのかなー?」
「十中八九。兵太夫だと思うよ」
「だよねー。…三ちゃ〜ん、どうしようー」

親しくない人は兵太夫のこと冷徹人間なんて言う。兵太夫は相手に弱みなんて絶対見せないから。でも僕の前では兵太夫は小さいころと変わらない、子どもで甘えん坊の兵太夫のままだ。
そんなことを考えていたら、ちいさく、笑みが零れた。

「…何笑っちゃってんの」
「あはは、ごめん、ごめん」
「三ちゃんはすぐばかにして笑う」
「ばかにしてないよー」
「してるよ。ガキだって思ってる」

あ、それは思ってる。とかく伝七のことになるととんと子どもだなあ、と思う。好きな子に優しくできないで苛めるなんて小学生みたいなんだもん。

「…あんなに構うのは伝七だけなのになあ。分かってんのかな、あいつ」
「分かってると思うけど、伝七も素直じゃないからね」
「も、ってなあに?三ちゃん」

何だか少し納得がいかない様子ではあったけど、ちょっと行ってくる。とだけ告げて兵太夫は教室から出て行った。





「…伝七。もういいよ」


物陰に隠れていた伝七はゆっくりとこちらに近付いた。顔が少し赤いようだ。

「…何で僕が隠れなきゃいけないんだ」
「でも良いこときけたでしょ?」
「…知らん」
「本当に素直じゃない。伝七も言えばいいじゃん。兵太夫が女の子に話しかけられてるの見て嫉妬しただけだよーって」

伝七は一瞬動きが止まった後、みるみる顔を赤くし興奮した様子で僕に詰め寄った。

「何デタラメ言ってるんだ!!」
「えーだって丁度見かけちゃったんだもん。大丈夫、兵ちゃんには言ってないよ」
「当たり前だ!!いいか!?もし言ってみろ、」
「はいはい。言わないから安心してよ」

こういう反応をするから兵太夫に漬け込まれるんだよね。ああ、こんな伝七見たら兵ちゃんすっごく喜びそうだなあ。そんなことをぼんやりと考えていたからか、背後の気配にまったく気が付かなかった。気付いたのは真っ青な顔した伝七の目線の先を追った後だった。




「なーるほど。いやあ、そっかそっか。つまりやきもちだったわけ」
「兵ちゃん」
「途中からさ、伝七が隠れてることに気づいちゃって。面白いことになりそうだから一回部屋出たんだ。ビンゴだったね」
「兵太夫…お前っ!!」

伝七も言い返そうとはするけどもう無理だ。完全に兵太夫のペース。蛇に睨まれた蛙状態。これが好きな子に対する仕打ちなんだからひねくれ者としか言いようがないな、と思う。

「三ちゃんありがとう。ちょっと伝七と2人で話してみるよ」
「はいはい」
「なっ!ま、待て!三治郎…」

怯えている蛙をあっさり置き去りにし、帰宅準備をする僕も大差ないか。ふふ、とまた自然に笑みが零れる。

「三治郎」

ふと顔を上げる。ああ、やっぱり兵太夫はちっとも変わってない。人との付き合い方が下手くそなところも、無邪気な笑顔を浮かべるところも。


「ありがとう」


僕にお礼を言える素直さはあるのに、なんで伝七には素直に気持ち伝えられないんだろうな。
本当に天の邪鬼な奴だなあ、と思いながらも兵太夫の笑顔を見て心底幸せな気持ちになる。


兵太夫の幸せが嬉しい、なんて思える自分も君の笑顔のように眩しく光る尊いものなのかもしれない。そんなことを考えながら今日もまた君の隣の居心地のよさを噛み締めるんだ。






隣り





0909
三治郎の好きはそういう好きじゃない。でも、お互いいなくちゃならない存在。そんなからくりコンビが大好きです。




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