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意地悪の理由(ろじいす)

※室町、成長。池田5年。




「俺は意地悪か」

「自覚があるんですか」

自覚があるかときかれれば実のところあまりない。ただこいつを見ていると構いたくなってしまい、つい一言口が過ぎてしまうのは自覚している。
1年生の時から変わらない関係性だ。こいつは以前の委員長であった久々知先輩のように俺のことを尊敬のまなざしで見ることはない。
しかし、どんなに可愛げのない憎まれ口をたたこうと俺に対する信頼はある。うぬぼれではない、確信がある。なんだかんだでこの4年間こいつと共に委員会を守ってきたのだ。(特に久々知先輩が卒業なさってからは、残った先輩の頼りのないこと。伊助と俺は団結をせざるを得なかったとも言える。)
口では語れない絆がある。それで十分だ。

「いや…最近さ、お前の友達に殺されそうになることが多々起きるんだ。お前に意地悪するなと」

「はあ、」

「特にあの兵太夫と庄左ヱ門。あいつらからは殺気がでてる。冗談で済ませないほどに」

「あの二人ちょっと過保護なんですよね。この前ついうっかり三郎次先輩の愚痴零してしまったからな」

「おい、お前のついうっかりが俺の命に関わるんだが」
「はいはい、気をつけますよ。それより先輩が僕に意地悪しなきゃいい話じゃないんですか?」

「意地悪って…ちょっと一言多かっただけだろ。それでお前命狙われるって理不尽な話だろ。」

「先輩は優秀な忍たまだから大丈夫ですよ」

そう言って笑みを零す伊助に不覚にも心を掴まれる。お前こそ、自覚もなしに人を惑わす行為を自重すべきだろ。
ここ最近伊助はやけに大人びてきた。昔から落ち着いた奴ではあったが、その顔に触れたいと考える自分がいる。この邪な欲が溢れているせいなのかもしれない、あいつらは俺を本気で殺そうとしているのは。とは言え、俺はまだ無罪。伊助に手の一つ出してない。迷惑な話だ。

「伊助、そっちは終わったか」

「すみません。あとこの一つで終わりなんですが、」

「届かねえのか?踏み台は」

「この前壊れたじゃないですか」

ああ、そういえば。この前の委員会で1年生が踏み外して…記憶が結ばれた俺は、溜め息を漏らし伊助に歩み寄る。

「どれ」

「あれです」

「あれじゃ分からない」

「もう、分かっているくせに。意地が悪いですよ。一番上の右から二番目ですっ」

可愛くない。もう分かってるくせに、で言葉を終わらせ頬を揺らせばいいものの。まあ、そんなの伊助じゃないんだが。

「…そこ邪魔だ。退け」

と顎で伊助を詰る。意地悪にきこえるかもしれないが、勘違いしないで欲しい。こんな至近距離(しかも煙硝倉という暗闇、密室)で理性を保つのは至極難しい。以前はこいつにこんなもの感じなかったが、俺はどれだけ欲求不満なのだろうか。

「手伝いますよ」

俺の理性の葛藤なぞ知る由もない。伊助は迷惑なことに手をかそうとする。近い。火薬に混じって伊助の匂いが鼻につく。

…あ、やべ

そもそも俺は無実の罪で命を狙われている。それなら有罪で狙われるのなら納得がいくではないか。そろそろ俺の我慢も限界にきていた。今までの努力に自分で拍手を送り、俺は伊助の後頭部を掴み唇に食らいついた。

「っんん…!?」

離れようとする伊助の腰に手を回し、逃げられないように抱き寄せる。抗議をする息をつかせない程、わざと水音をたて、執拗に責める。この後どうせこいつに平手打ちをくらうんだ。だったらいただけるだけいただくべきだ。

「んん…あっ…」

その時、俺は一瞬躊躇ってしまった。伊助が頑なに閉じていた唇から舌を覗かせたから。


(…んで、口開けんだよ)

意地悪のつもりだった。終わった後、殴られ、ばーか本気にすんな、冗談だ。と言うはずだった。だが何かが俺の中から溢れて止めることが出来なかった。
開けられた、ならば入れるしか選択肢はない。舌を噛み千切られる可能性も危惧したが、それよりも目先の快楽をとった。


舌先が触れ合えば、逃げようとするそれを絡みとり、抜けるほどに吸い尽く。
角度を変え、何度も何度も味わう内にどちらのも分からない唾液が甘さを増し、くちゅ、くちゅ、と卑猥な音をたてる。もう冗談では済まされない。済ませたくない。俺はこの溢れでる想いの正体を知った。



ああ、ずっと好きだったのか。


「ふぅ…んんっあっ…」

伊助の鼻にかかった声に、犯しているような錯覚をおこし目眩がする。自分の呼吸も荒くなり、はっ、はっ、と高い屋根に響き渡る。
そして名残惜しいかのように、唇が離れた。伊助の口の端からはだらしなく液が垂れていて、どうしようもなく興奮した。

「…誘ってんじゃねーぞ。どあほ。口開けたら舌いれんに決まってんだろ」

伊助はまだ肩を揺らしていた。呼吸が落ち着かないらしい。

「…何で、口開けた」

開けなきゃ、俺も理性が働いて、冗談でやり過ごせたはずだ。多分。

「そんなのされたら男なんて馬鹿だから同意されたと勘違いするぞ。お前、そういうのに聡いだろ。なんでまた…」


そこまで言って馬鹿は自分だと気付いた。伊助はそんなミス、絶対にしない。それなら、

「先輩って自分のしていることに無自覚だから困りますよね。意地悪もですけど、僕に対する優しさも、もしかして無自覚ですか?」

「誰が無自覚…」

…無自覚だったのだろう。そういう意味からの優しさを与えた覚えもない。だって先程の口付けで俺は伊助への想いを自覚した。しかし覚えはないが、無自覚なりに本能が働いていたということか。

馬鹿は俺か。

「これ、冗談なんて意地悪で済ませないで下さいよ」

誰が冗談で済ますかどあほ。先程までの自分の考えを棚にあげ、心で罵倒する。さすが、『よく気が付く伊助』だ。俺より俺を分かっているらしい。だけど、あえて言葉にしよう。


「伊助、好きだ。さっき気付いた」

「…一言多いんですよ。だから」


でも、ずっとずっと前から好きだったみたいだ。と伊助を抱き寄せて呟けば、僕はその前から気付いてましたよ、先輩の気持ち。なんて言うから、お前には適わない。


とうとうあいつらに殺される理由ができた俺だったが、面倒などとは少しも思わなかった。



意地悪の理由




0428
「伊助を惚れさせておいて自分の気持ちに無自覚とかありえない。あー死んでほしい。」

「でも死んだら伊助が悲しむから、全身複雑骨折位がいいと思うよ」

「庄ちゃんって冷静ね」



全然冷静じゃない!






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