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いっぱち物語(仮)
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キィっと扉を開く音が、静かに響く。

足音もたてずに中に入ると、一番奥の個室の前で足を止めた。

「ぅ…、」

「………」

呻く早川を冷ややかに見下ろす瞳は、いつもの明るさは鳴りを潜め不気味に濁っている。

いや、明るいと言うのには語弊がある。彼を「明るい」「太陽」「光」と称するのは、彼に狂った一部の人間だけだ。正常にその人物の為人を推し量れるならば、まず嫌悪感が先に立つはずだ。

「…爽、何してんだよ…」

「!!ィッ…し、星輝…?」

聞き慣れた愛しい声に、痛みを押して顔を上げる。

相変わらず清潔感の欠片も無いボサボサの髪、黄ばんだ大きく分厚い黒縁の眼鏡、それらのせいで口許ぐらいしか見えないが、外見など関係無く可愛いと思うし、愛しいと思う。

これは星輝から学んだ事だ。

人間関係を築くのに見た目なんて関係無い。

外見で人間を判断するのは間違ってる。

人は誰しも平等だ。と。

その言葉に感銘を受け、そして言葉通りに学園の権力者にでさえ物怖じせず平等に接する、その姿は好ましく映った。

早川 爽はスポーツ推薦で高等部から入学した特待生だ。スポーツマン特有の溌剌とした声に、流れる汗さえ暑苦しく感じさせない爽やかな外見、まだ一年生ながら鍛えられ引き締まった体、入学当初からの154km/hを越えるストレートは圧巻で、体を、肩を壊さないようにと監督と相談した上での毎日の走り込みや自主練、その野球に対する姿勢も有り、先輩方からは一目も二目も置かれて可愛がられている。

だが、そこはこの学園の特色だ。先輩後輩として純粋に接する者もいれば、色の含んだ目で見てくる者もいる。それはクラスメートも、一部の初対面の人間でも同じだった。

理由は見た目がいいから。

中学時代、告白された事は何回かあった。差し入れを貰ったり、行事にはプレゼントを貰ったり、そのいずれも女の子で、彼女等は総じて恋をしているキラキラとした瞳で早川を見ていた。興味が無いわけではない。だが、今はただただ野球をする事が楽しかったからこそ全て断ってきた。

そんな野球一筋に打ち込んで、色恋とは無縁だった早川にとって、学園の生徒が向ける視線は恐怖と嫌悪の対象だった。

彼女等は恋心だけだった。

だが、それが同性と言うだけで、高校生と言うだけで、ここまで肉欲に塗れるものなのか?実際「抱いてくれ」と言ってきた者もいる。

即物的にも程がある。

獣の集まりだ。

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あきゅろす。
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