いっぱち物語(仮) 10 でも、悪いねクマさん。 クマさんにゃー泣き顔ばっか見られてるし、望み薄そーな男をネチネチ想い続けてる女々しいとこも知られてるけどね、オレも男なんよ。プライドあんの。いつまでも女々しいとこ見せたくないの。誰かの手を借りなきゃ立ち直る事もできねーとか思われたくないわけ。 クマさんにはいっぱい助けられてるから尚更。 クマさんは既にオレにとって大切な人だから、迷惑かけたくないとか思うし、もじゃから助けたいと思うし、護りたいと思う。 やられっぱなしは性に合わねー。 って、喧嘩腰にゆー事でもねーけど。 と、インターホンが鳴る。 んー?今授業中じゃないっけ?誰だべ? 「どっちらーさまー?」 ドアは開けません。無闇に玄関扉は開けないとかいー子ちゃん発言とかじゃなく、単純に今の顔は見せらんないだろってゆー。 ………返答がない。 シカトかい。こんにゃろーめ。 ドアスコープを覗いても誰だかわかんね。ドアに体を預けてるらしく肩が少し見える程度。 あんれー?なーんか上下?に?動いてる? ドアに耳をピッタリくっつけると微かに聴こえる、ハアハアと荒い呼吸音。 ……………………………ドン引き。 新手の変態電話(?)ですか? 「……あー…と…今日のパンツは色気のないベージュです」 「……ハッ…ハッ…き…て…無ぇ…よ…ハァッ…」 息も絶え絶えにツッコむとは!!てちげー!!この声クマさんじゃん!! 「クマさん!!」 「がっ!!」 急いでドア開けたら勢いでクマさんのデコに直撃。ガンッて。 ………ソーリー… 「わーりぃクマさん、割れてない?」 壁に手をついて、もー片方でデコを抑えて悶えてるクマさんの背中を撫でる。 デコ痛いやら息上がってるやらで苦しそー。それを裏付けるよーにワイシャツの上から触れる背中がジットリと濡れてる。 濡れてる? あれ?まさか… 「…………もしかして、走って来たの?」 ここまで? そもそもさっきの電話ん時どこ居たの? ここは校舎も寮も金持ち仕様でデカイ。広い。それに運動不足改善とかゆー名目で少し離れた場所に建ってる。だからどんなアスリートが全力疾走しても10分はかかる距離だ。の筈。 10分、かかってない、よ、ねー…? メガネを少し押し上げて、親指と中指で揉むように擦ってる。汗が入んのかな?汗すごい。ポタポタ落ちてきて、髪の毛なんて雨も降ってないのにしっとりと濡れてる。シャツもスラックスもピッタリ張り付いて気持ち悪そー。 ……呆れた。 何してんのこの人? 『勝手に』の結果がこれなわけ? 40近いオッサンが全力疾走? 「おい」 「は?」 「何笑ってんだよ」 ぶすくれてる。そんな顔も愛嬌あんね。笑いたくもなるっしょ。今だに荒い息、上がった体温、流れる汗も、その全部に愛を感じるよ。 [*前][次#] [戻る] |