solo【その3】(※18禁)・3


「あっ、アカ、ギ……ッ」
 涙ぐんだ目でぶるりと体を震わせ、カイジはちいさな声でその名を口にする。
 するとどうしたことか、興奮剤でも飲んだかのようにカイジの気持ちは高揚し、体はゾクゾクと戦いて、ローションとカウパーでぐちょぐちょに濡れた陰茎はまた一回りも大きく、硬くなった。
「あかぎ、ぁう、ン……あっ、あ、かぎ……っ」
 カイジは無我夢中でその名を呼びながら、両手を激しく動かし続けた。
 後ろからも前からも、今にも飛沫が飛び散りそうなくらいに水っぽくなった音が絶えず鳴り、カイジ自身の体温によってより強く香り始めた甘い香りは、いまや狭い部屋中を満たすほど充満している。
 自然に腰が揺らめくのを、止められはしなかった。

 体中がヒクヒクと疼いてどうにも切なく、カイジは陰茎を扱いている手を止め、ベッドの上に放り出していた携帯に手を伸ばす。
 また留守電を再生し、肩に挟んでアカギの声を聞きながらオナニーを再開する。
『カイジさん……』
「ふぅ、っ、アカギっ……アカギ、っ……」
 耳許を擽る声に返事をするように、カイジは繰り返し、ここにはいない男の名を呼ぶ。
 その頬は熱でもあるかのように真っ赤に色づき、太い眉は困ったように寄せられ、開きっぱなしの口からは、淫らな喘ぎ声と透明な涎が絶えず垂れ流されている。
 自分自身の体なので当たり前のことだが、後ろに入れた指も前を弄ぶ指も、的確に自分のイイところを責め続ける。
 それなのに、カイジはなんだか物足りなさを感じていた。

 もっと……もっと太いモノが欲しい……。
 もちろんただ太いだけではなくて、自分の意思で荒々しく突き上げてくる、熱くて生々しい肉棒……。
 アカギに突いてほしい……乱暴に体を開かれ、滅茶苦茶に貫かれたい……。


「っうぁ……アカギ、っ……!」
 アカギとの行為を思い出すと、これ以上ないほどに高まっていたはずの性感がさらに大きくなり、それは瞬く間に絶頂感へと変わっていく。
 ラストスパートをかけるように、カイジは今まで以上に大きく手を動かしていやらしい手つきで陰茎を扱きたて、後ろに入れた指はアカギのピストンを模すようにぶちゅぶちゅと水音をたてて激しく出し入れしつつ、前立腺を狙って突きまくる。
 透明だったカウパーがうっすらと白く濁り、鈴口に露を結んではとろとろと流れ落ちる。
 限界が近い。体を突き上げるような射精への欲求に身を委ねながら、カイジはしゃくり上げるように喘いだ。
「あぅっ、あか、っ……あか、ぎぃっ……!」

 ーーと、ちょうどその時。
 けたたましい電子音が耳をつんざき、カイジは「うわぁっ!?」と叫んで耳許にくっつけていた携帯をベッドに落とした。

 はぁ、はぁ、と息を整えながら携帯を見ると、『着信 公衆電話』の文字。
 どうやらアカギからの電話らしい。

 頭から冷や水を浴びせかけられたように冷静さを取り戻したカイジは、口に溜まった唾液をこくりと飲み下し、咳払いして喉の調子を整えてから、平静を装って携帯を拾い上げ、通話ボタンを押して耳に当てた。
「……はい」
『カイジさん。オレだけど。バイト終わったみたいだね』
「アカギか? ああ、ちょうど今、終わって家に着いたとこ……」
 本当はずいぶん前に終わっていたのだが、今までしていたことの手前、なんとなく無意味な嘘をついてしまった。
『今、雀荘からかけてるんだけど、さっき勝負ついたから、今からあんたのうちに向かうよ』
「えっ!?」
 思わず声を上げてしまい、しまった、とカイジは慌てる。
『えっ!? ……って、なに? オレが行ったら、まずいことでもあるの?』
「い、いや!! そうじゃなくて……」
 口篭もりながら、オロオロと言い訳を考える。
「部屋……汚ぇからさ……最近掃除、さぼっちゃってたし……」
『……』
 内心汗をダラダラ流しながら、カイジは半笑いで言ったが、アカギは黙り込んでしまった。

 十中八九、嘘だとバレている……
 当たり前だ。今まで多少片付いてなくとも、平気な顔してアカギを部屋に上げていたのに、今さらそんな殊勝な発言、信じる方がどうかしている。

 どうしてこう自分は嘘がヘタなのかと、頭を抱えて呻きたくなるカイジの耳に、アカギの軽いため息が聞こえてきた。
『ま、いいよ。そういうことにしておいてあげる……』
 深く追求されなかったことに、カイジはほっと胸を撫で下ろす。

『カイジさん……オレのいない間、ちゃんといい子にしてた?』
「……え?」
 ドキリと心臓が跳ねる。
 アカギは単なる軽口として言っているのだろうが、まるで今までしていた淫らな行為を、知っているかのような発言だったからだ。
「お、お前なぁっ……! 『いい子』って、なんだその言い方っ……! オレはお前のペットじゃねえんだぞっ……!!」
 カイジが怒ると、電話の向こうから低い笑い声が聞こえてくる。
『そうだね……あんたはペットじゃない。オレの恋人だ……』
「……!」
 カイジの心臓が、また大きく脈打つ。
 葉擦れのような、心地よい声。
 これは録音じゃなく、アカギの生の声なのだ。
 知らず知らず、カイジの吐息がまた熱を帯びていく。

『今日はひさしぶりに会えるから……たっぷりかわいがってあげる……』

 そんな状態のカイジに追い打ちをかけるように、周囲に聞かれないよう、密やかに抑えられた声でアカギが言う。
 まるで耳をぞろりと舐め上げられたかのように、カイジはぶるりと体を震わせる。
 目線を下に落とすと、まだ勃ち上がったままの陰茎。
 携帯を肩で挟み、空いた右手をそろそろとそこへ下ろしてゆく。
 くちゅりと音をたてて根本を握ると、先ほどまでの快感が蘇ってきて腰が戦慄く。
 こんなことしちゃダメだ……と思いつつも、カイジはゆっくりと手を上下に動かしながら、つとめて平板な声をつくってアカギに返事をする。
「だから、っ、ペットに言うみたいな言い方、すんなって……!」
 減らず口を叩きながらも、カイジは性感帯を擦り上げるのに夢中になっている。
『あらら……でもあんた、好きでしょ? オレに抱かれるの……』

 ああ……好き。大好きだ。
 今すぐにでも、そうされたいくらいに……

「はっ、バッカじゃねえの? そんなわけ……、っ」
 本心とは真逆のことを言うカイジの瞳はアカギを求めて潤み、興奮にせわしなくなる息を、押し殺すのに苦労するほどだった。
『ふーん……じゃあ、今日はやめとく?』
「えっ!?」
 思わず本心から不満げな声を上げてしまったカイジに、アカギはくつくつと喉を鳴らす。
『クク……嘘だよ。あんた、相変わらず素直だな』
「うっ、うるせー……」
『ふふ……心配しなくても、今夜は一晩中、かわいがってやるさ……あんたがもういいって、泣いて嫌がるまでね……』
 まるで睦言のときのような、甘く掠れた声。
 カイジはたまらず、左手を後ろへ持っていき、すっかり潤んだソコにぐちゅりと指を突っ込んだ。
 すぐさま指の腹で前立腺を抉ると、ビリビリと体が痺れて、思わずいやらしい声が漏れそうになる。
「っく……この、スケベ……変態っ……!」
 アカギに言い返しつつ、カイジは心の中でまったくべつのことを考えていた。

 ちがう……スケベで変態なのは、オレの方だ。
 アカギの声をオカズにして、ケツの孔まで弄くって……
 オナニーで、きもちよくなっちまってる……最低だ……

 そんな被虐的な気分さえ、たまらない快感に繋がる。
 ぬちゃっぬちゃっと陰茎を扱く手は、止まらないどころか激しさを増し、後ろも三本揃えた指を犯すような獰猛さで突き立て、きもちいいところをぐにぐにと蹂躙する。

 ああ、アカギっ……
 お前に、滅茶苦茶に犯されたい……

 そんなカイジの心中を知らないアカギは、電話越しにクスリと笑う。
『じゃあ、また後でね……十分くらいで、そっちに着くから……』
「あっ、アカーー」
 名残惜しさについ、呼び掛けてしまったカイジの声は届かなかったらしい。
 ツー、ツー、という機械音にがっかりしたようなため息をつき、カイジは自慰の手を止めると、耳から携帯を離した。

 あと十分くらいか……
 ローションでぬらぬらと妖しく光る自分の体を見る。
 このままオナニーを続ければ、十分以内に達することは可能だろう。
 だけどその後、後処理して体を拭きローションを片付け……となると、確実に十分では間に合わない。
 もうあとすこしでイけるという、いちばんきもちのいいところだったが、カイジは意思を奮い立たせてオナニーを止めることにした。

 立ち上がり、ティッシュの箱を引き寄せて乳首と陰茎を中心に、体の表面に纏わりつくローションを丁寧に拭う。
 後孔の中にも、ぬるぬるとした液体がたっぷりと詰まったままだったが、それを掻き出す時間はない。
 仕方がないので、ぐちょぐちょに濡れた孔の周りだけ拭き取り、下履きを履いて元通りスウェットを着直した。
 ローションをベッドの下に隠し、変な形に皺が寄った布団をきちんと整える。
 部屋の窓を全開にして、籠もった甘ったるい匂いを外へ逃がしていると、街灯の下、ちょうどこちらに向かって歩いてくる白髪頭が見えた。

 アカギは部屋の方を見上げ、カイジに気がついたようだった。
 ひさしぶりの再会になんだか照れくさくなりつつも、カイジは軽く片手を上げる。
 それを見たアカギが微かに頷くのを確認して、カイジは部屋の中へ引っ込んだ。

 もうすぐ、アカギに会える……

 自然、緩んでしまう表情を引き締めつつ、そわそわと落ち着かなさげに部屋をうろつくカイジの部屋のドアが、やがて、コツコツと乾いた音をたててノックされた。




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