solo【その3】(※18禁)・4




「ひさしぶり……」

 ドアを開けると、そこに立っていたアカギが目を細めてそう言った。
 しばらく見ていなかった、恋人の姿。
 夏を過ぎたのに、相変わらず日に焼けない白い肌。
 着ているものだけが長袖の、薄いシャツに変わっている。髪がすこし、伸びた。

 相変わらず惚れ惚れするほどの男前で、思わず見とれてしまいそうになるのを誤魔化しつつ、カイジはぶっきらぼうに「おう」とだけ答えた。



「どうだった? 今日の勝負……」
 部屋に上がり、居間の床に座ったアカギにカイジが聞くと、
「つまんなかった」
 と即答される。
「つまんなかった、ってお前、相手はかなり名の知れた代打ちだって言ってたじゃねえか……」
「そうだけど……大したことなかったよ。あんな奴よりたぶん、あんたのがずっと強い……」
「えっ……お前それはあまりにも……相手に失礼じゃねえ?」
 自分の普段の力量を弁えているカイジは、顔を引きつらせてそう嗜める。
 すると、アカギはふふと笑って、卓袱台に頬杖を突いてカイジを見た。
「そんなことないさ。オレはあんたの博打の腕に、惚れてるんだぜ?」
 カイジはぐっと言葉に詰まり、へどもどし始める。
「笑えない冗談はよせって……オレがいつもジリ貧なの、知ってるだろ……?」
「そうじゃなくてさ……わかってるくせに」
 愉しそうに笑うアカギの顔を、カイジは見られなかった。

 生死を賭けるような土壇場で覚醒する、カイジの才。
 滅多に花開くことがないため、その真価を知る者は少ない。
 だが、アカギはそこに惚れてくれているのだ。
 恋人として『惚れてる』なんて言われて、嬉しいという気持ちも、もちろんある。

 だがそれ以上に、ギャンブラーとして、年下ながら憧れに似た気持ちすら抱いているアカギに、己の力を認めてもらえているということが、カイジにとって飛び上がりたいくらい、本当に嬉しいことなのだ。


 緩んでしまう口許を隠すように手で覆って、目線を明後日の方向に逸らすカイジに、アカギは口端を吊り上げる。
「まぁ、オレが惚れてるのは、そこだけじゃなくて……」
「……っ!」
 いきなり腰を抱き寄せられて、カイジは鋭く息を飲んだ。
「たとえば……このいやらしい体にも……」
「あっ、あ……」
 するりとスウェットの中に忍び込んできた冷たい手が、脇腹を擽るように撫で上げる。
「かなり入れあげちまってるんだぜ? オレは……」
「んっ、んぁ、アカギ……」
「カイジさん……」
 先ほどまでの自慰の名残もあって、ぴくぴくと敏感に反応するカイジに、アカギはそっと唇を寄せる。
 ちゅ、ちゅっ、と軽く啄んでから、ぬるりと潜り込んきたアカギの舌に、おずおずとカイジは舌を絡める。
「ん、ふ……ん、ぁん……」
 舌を吸い、確かめるように歯列をなぞり、神経が過敏な上顎を舐められると、カイジの体からたちどころに力が抜けていく。

 ひさしぶりの、アカギのキス。
 口いっぱいに満たされるハイライトの苦味と、甘いようなアカギの味。
 頭がおかしくなりそうなくらい、きもちがいい……

 カイジは震える手をアカギの背に回し、もっとと自ら舌をアカギの口腔内に深く差し出す。
 いつになく積極的なカイジに応えるように、アカギもカイジの腰を抱く腕を強く引き寄せ、強く舌を絡める。
「んぁ、……んっ、んっ……」
 くちゅくちゅと互いの唾液を存分に混ぜ合い、カイジの口端から雫が一筋滴ったところで、アカギは唇を離した。
 離れたあとも、名残惜しそうになんどもカイジの唇を吸い、顎まで垂れた唾液の筋を舐め上げては、また舌先を触れ合わせる。
「カイジさん……ベッドへ行こう……?」
「えっ……? ん、んぅ……っ」
 ちろちろと舌を舐め上げられながら甘くねだられ、カイジは困惑した。

 本当は、自分だってアカギに触って欲しい。今すぐに。
 だけどそうするとたちまちに、自分がオナニーしていたことなどバレてしまうだろう。
 なにせ、乳首や陰茎は拭いたものの、後ろの孔の中には時間がなくて掻き出せなかったローションがたっぷり入っていて、今もすこし身じろぐだけで、ぬるつく感触が体を震わせるほどなのだ。
 思い出した途端、どうしようもなくそれが気になり始め、もぞもぞと居心地悪そうにするカイジの様子に、アカギが気付かないはずがなかった。

 アカギの目が鋭く光ったことも知らず、カイジはアカギの舌に自分の舌を触れさせたまま、言う。
「ぁ、んっ……、シャワー、浴びてから……」
「なんで? ……ん、いいじゃない、このままで……」
 会話している間さえ惜しむように、ぴちゃ……くちゅり……と淫靡な音をたてながら、ふたりは舌を絡めあう。
「っふ……、オレ、汗臭いしっ……ぁ、ん……」
「そんなの、気にしないけど、ン……っ、じゃあ……一緒に浴びる?」
「っ……そ、それは……っ」
 キスの快感にうっとりと身を委ねながらも、ぐずぐずと煮え切らないカイジの態度を怪しく思ったアカギは、カイジの下履きの中に手を潜り込ませる。
「あっ……!」
「もうこんなにおっ勃てといて、なに二の足踏んでんだよ……? もしかしてオレのこと、焦らしてるの……?」
「あっやっ、違っ、んっ、んんっ……!」
 張り詰めた自身の裏筋を指でつうとなぞり上げられ、ぴくりと反応するカイジの唇に、アカギは再度、深く口づける。
「んっ……ふぁ、あ、あか……っ」
 舌を引きずり出されるようにして、甘噛みされたあと、まるで咀嚼するようにアカギの口内で味わわれる。
 くりくりと鈴口を撫でられ、じわりとまた先走りが滲んでくるのがわかる。

 やばい。すげぇ、きもちいい……

 このまま身を委ねてしまいたくなるが、そうするとあの、恥ずかしい秘め事を知られてしまうことになる。
 ほとんど消し飛んでしまった理性の残りを総動員させて、カイジは突き飛ばすようにしてアカギを撥ねのけた。
「……カイジさん……?」
 訝しげに眉を寄せるアカギの唇が唾液で濡れ光っていて、思わずそこにむしゃぶりつきたくなるのをこらえ、カイジはすっくと立ち上がった。
「やっぱ、シャワー、浴びてくるっ……」
 そう言って逃げるようにその場をあとにしようとした。

 が。

「あっ、アカギっ……!」
 すぐさま、座ったままのアカギにがっちりと腰を抱きすくめられ、動けなくなってしまった。
「よ、よせアカギっ、離せって……!」
 逃れようとジタジタともがくカイジに腕の力をさらに強めながら、アカギは低く問いかける。
「あんた……なにか隠してるだろ……?」
「っ! そ、そんなわけ……」
 カイジは慌てて取り繕ったが、一瞬ギクリとしたのを、アカギが見逃すはずもない。
 半眼になったアカギは暴れるカイジのスウェットに手をかけると、下履きごと膝のあたりまで一気に引きずり下ろす。
「あっ! ばっバカ、なにやって……っ!」
 淫らなキスのせいで大きく傘を張った陰茎が、ぷるんと勢いよく飛び出してくる。
 だが、カイジはそれには構わずに、両手を後ろに回し、肉感的な尻の間の割れ目を必死に隠そうとしている。
 アカギは邪魔なその手としばらく格闘したあと、片手で纏め上げるようにして簡単に自由を奪う。
「あっ、やめ、やめてくれっ、アカギっ……!」
 半泣きになって必死に懇願するカイジの情けない顔を見上げながら、アカギは乾いたままの指をいきなり二本、無慈悲にカイジの孔へとねじ込んだ。
「うぁっ……!」
 カイジが背を戦かせて声を上げる。
 だが、その声が痛みによるものではないということが、アカギにはすぐにわかった。

 差し込んだ二本の指が、驚くほどやわらかく解れた窄まりに簡単に呑み込まれていったからだ。
 そして、その中は尋常ではないほど潤っていて、ぬるぬるに濡れていた。

「あ……ああ、あ……」
 見開いた目からぼろぼろと涙を零すカイジの顔を見て、すべてを悟ったアカギはニヤリと笑った。
「ふーん……」
「あっ! あっ、嫌だ、あ、あ……っ!」
 そのまま、潤沢に濡れたソコを、掻き回すようにして指を抜き差しすると、カイジの口からあられもない声が漏れ出した。
「あんた、オレが来るのも待ちきれずに、ひとりでこんな悪いことしてたんだ……」
「ぁっ、ん、あっ、アカギ、やめ、あっあっ……!」
「おしおきが必要だな……クク……」
 愉快そうに喉を鳴らし、アカギはさらに奥まで指を突き入れる。
 甘い喘ぎ声とともに、目の前の孔から溢れ出て、とろりと内股を伝い落ちていくローション。
 立ち込める甘い香りに、アカギは嘲りの笑みをカイジに向ける。
「こんなにたくさんローション使って……やらしいな、もうべちょべちょじゃねえか……」
「あ、ぁん、も、やめ……あかぎっ……!」
 足をガクガクさせ、今にも倒れてしまいそうになりながらも、カイジは必死で自立を保っていた。
 そんなカイジに構わず、アカギはローションを泡立てるような勢いで、思うさま熟れた蕾とその中を嬲る。
 ぐちょっ……ぐちょっ……
 本来なら自然に濡れるはずのない場所から、まるで愛液のように垂れてくる、透明でぬるついた液体。
 その倒錯的で卑猥な光景に思わず唾を飲み、アカギはずるりと指を引き抜いた。
「あ……はぁ、はぁ……」
 涙目で呼吸を荒げながら、縋るように自分を見つめるカイジに、アカギは濡れそぼった自身の指をぺろりと舐めて目を細める。
「クク……この淫乱……」
「う、ううっ……」
 羞恥に体を赤く染め、ぽろぽろと涙を零すカイジにサディスティックな気持ちにさせられたアカギは、立ち上がり、カイジの手を強く引いた。

「めそめそ泣いてる場合じゃないぜ……いやらしいあんたの体に、これからたっぷりおしおきしてやらなきゃいけねえからな……」

 覚悟しろよ、と耳許で囁かれ、カイジは期待と不安でぶるぶると震えた。



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