Trick or Threeway・1(※18禁) アカ×カイ×カイ3P カイジさんがふたりになる話 カイ×カイの本番描写あり ケモ耳しっぽ注意
これは。
いったい、どういうことなのだろうか。
数ヶ月ぶりに訪れた、恋人のアパート。
ノックをしても返事はなく、薄いドアの向こうから聞こえてきたのは、聞き慣れた声がなにごとかを激しく言い争うような音。
躊躇わずドアノブを捻り、部屋に上がって居間へと踏み込んだ瞬間、アカギは軽く目を見開いた。
「あ、アカギっ……! 助けてくれっ……!!」
「……なんだ、お前か。相変わらず、間がいいのか悪ぃのか、わかんねぇ野郎だな」
我が目を疑い、なんど瞬きしてみても、目の前の光景に変化はなく。
「…………」
アカギは無言のまま軽く眉を寄せ、こめかみを押さえる。
そんなアカギを、なぜかふたりに分裂してしまった上、頭から獣の耳らしきものを生やした恋人ーー伊藤開司が、四つの大きな瞳でじっと見つめていた。
「で? いったいどうして、こんなことになってるわけ」
放っておくといつまでも埒のあかない言い争いを続けそうだったふたりの恋人を、どうにか落ち着かせたアカギは、卓袱台越しに問いかける。
「どうして……って……」
情けなく眉を下げ切った片方のカイジが、チラチラと隣を窺いながら言うと、もうひとりのカイジは傍らから送られる視線をまるっきり無視して、
「それがわかんねぇから、こんなに騒いでんだろうが」
アカギを睨むように見ながら、うんざりした風に吐き捨てた。
話を聞くとどうやら、日がな一日貪り続けていた惰眠からついさっき目覚めてみたら、なぜか隣にもうひとりの自分がいた……ということらしい。
「おまけに、こんなもんまで生えやがって……」
片方のカイジがうざったそうに引っ張ったのは、己の頭上にピンと立つ、黒いウサギの耳。
悄然としているもうひとりのカイジの頭にも、同じように黒い獣の耳がついている。
ただし、こちらは丸みを帯びた小さな三角形の耳で、背後から伸びる長いしっぽから判断するに、どうやら猫らしい。
こちらのカイジの首には赤いチョーカーが巻かれており、ちょうど喉仏の上あたりについている金色の鈴が、微かな身じろぎに合わせてチリチリとかわいらしい音を立てていた。
アカギは目を閉じ、軽くため息をつく。
最初は、カイジが仮装の趣味に目覚めたのかと思った。
今夜はハロウィン。このアパートへの道中でも、アカギはけったいな格好で街を徘徊する輩たちと、幾度もすれ違ってきたのだ。
カイジの性格上考えにくいことだが、浮ついた雰囲気につい流されてしまったという可能性も、皆無ではないとアカギは思っていた。
しかし、ふたりのカイジのリアクションや、感情の動きに合わせてピクピクと揺れ動く耳やしっぽを見るに、これは仮装などではなく、本当に体から生えているものだと信じる他なかった。
改めて、アカギは目の前のふたりの様子を観察する。
カイジが実は双子だったという可能性は、仮装の件同様、速攻で否定せざるを得なかった。
ふたりの容姿は、一卵性の双子というレベルでなく、似過ぎているのだ。
顔や背格好だけではなく、首周りがてろてろに伸びてしまった灰色のスウェットさえも、その草臥れ具合まで詳細にコピーし、貼り付けたかのようである。
見た目だけではない。ちょっとしたクセや声のトーン、息遣いや瞬きのタイミングに至るまで、見れば見るほど、聞けば聞くほど、そっくりそのまま、同じなのだ。
きっとクローン人間だって、ここまでとはいかないだろう。
ただ、ふたりのカイジの間には、獣耳の他にも、決定的に違う点がふたつあった。
ひとつ目は、傷。
過去のギャンブルで付いたという頬や耳や指の傷痕が、猫耳のカイジからは綺麗さっぱり消え失せている。
ふたつ目は、性格。
猫耳のカイジは、この異常事態にひどく怯えているかのように、目に涙をいっぱい溜め、絶えず耳をぴくぴくさせておどおどビクビクしている。
一方、兎耳のカイジは、不機嫌そうな仏頂面で耳をまっすぐに立て、静かに周りを威圧するようなオーラを放っている。
要するに、ふたりはこれだけ同じなのに、それと同時に、まるっきり正反対の要素も持ち合わせているのだ。
ふたりを足し合わせたら、ちょうどいつものカイジになりそうだと、アカギは思った。
……と、なると、笑えないほど荒唐無稽だが、やはりなんらかの理由で、ひとりのカイジがふたりに分裂して獣耳まで生えてしまったというのが、ことの真相であると言えそうだ。
「なんか心当たり、ないの」
変なギャンブルに首突っ込んだとか、とアカギが言えば、
「……あり過ぎて、わかんねぇ」
兎カイジが、ぶっきらぼうに答える。
それを聞いた瞬間、猫カイジがワッと泣き崩れた。
「うっ……なんで……こんな理不尽なことが、オレの身ばかりにっ……!!」
ボロ……ボロ……と零れる大粒の涙が、戦慄く唇を瞬く間にびしょびしょに濡らしていく。
ぎゅっと目を瞑り、継ぎ接ぎのない手でゴシゴシと顔を擦るもうひとりの自分を、兎カイジは冷たい目で一瞥し、
「……うぜぇ」
一言、そう吐き捨てた。
唾を吐くようなその言葉に、泣きじゃくる猫カイジの肩がビクリと跳ねる。
もうひとりの自分自身の言葉にすら怯え、耳を伏せしっぽを下げるその姿を、アカギが物珍しそうに観察していると、兎カイジが卓袱台に手を付き、大きく身を乗り出してきた。
「そんなことよりっ……!! お前オレと勝負しろっ、アカギっ……!!」
「……は?」
「……ッ!!」
大きな目をギラギラと獣のように光らせ、片頬をつり上げて不敵な笑みを浮かべる兎カイジを、アカギは細い眉を上げ、猫カイジは驚愕の表情で見つめる。
「今日は、お前に勝てる気すんだよ……! クク……、ギャンブルだアカギっ……! 腕でも足でも、お前の望むものなんだって賭けてやるっ……!!」
「ば……ッ」
もうひとりの自分の勝手な発言に、今まで泣きじゃくっていたことも忘れ、猫カイジが蒼白な顔で食ってかかった。
「ばっか野郎ッ……!! なんてこと言ってんだ、お前っ……!! オレがアカギに勝てるわけねえだろっ、気でも狂ってんのかよっ……!!」
キャンキャンと、猫ではなく犬のように喚き立てられ、兎カイジは煩そうに舌打ちする。
常にはないほど鋭い光を放つ双眸で、ゆらりと隣を見遣り、刹那。
それこそ犬のような俊敏さで、兎カイジはもうひとりの自分に飛びかかった。
完全に不意を突かれた猫カイジは、兎カイジの体を支えきれず、バランスを崩して仰向けに倒れ込む。
「痛……ッ!!」
後頭部を床に強かに打ちつけ、猫カイジは顔を顰めて呻いた。
その体の上にのしかかり、ギリギリと歯軋りしながら、兎カイジが低く言葉を紡ぐ。
「お前、イラつくんだよっ……! お前さえ、いなければ……オレはっ……!!」
怒りに燃える黒い瞳に射竦められ、猫カイジの口から「ひっ」とちいさな悲鳴が上がる。
蛇に睨まれた蛙のようなその有様を冷たく鼻で笑い、兎カイジはゆっくりと体を起こしてアカギの方を見た。
「いつまた、もとのオレに戻っちまうかわからねぇ……そうなる前にさっさとやろうぜ、アカギっ……!!」
狂気を孕んだ目で、愉しそうに呼びかけてくる兎カイジ。
一方で、腹の上に乗られてジタバタもがきながらも、猫カイジも必死の形相でアカギに叫ぶ。
「やめろっ、やめてくれっ……、アカギっ……! オレはまだ、こんなところで死にたくなんか……っ!」
「あぁ? 馬鹿かお前? 死なねぇっつうの……その弱気マジどうにかしろよ、この負け犬っ……!!」
「お、お前こそ、もっと命を大事にしろっ……! 死んじまったら元も子もねぇだろうがっ……、この単細胞ッ……!!」
「だから、死なねえっつってんーー」
ダンッ! と大きな音が響き渡り、ふたりのカイジはビクリと肩を跳ねさせる。
勝ち気に血走った双眸と、うるうると涙に濡れた双眸。
四つの黒い瞳が自分の方をしっかりと見たことを確認してから、アカギは卓袱台を叩いた手を胸の前で組み、悪魔めいた顔でニヤリと笑った。
「それじゃ……、こういうのはどう? カイジさんーー」
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