昼下がりの情事(※18禁)・5



 

 

 自力では立ち上がれないくらいヘトヘトになったカイジの体を、しげるは丁寧にシャワーで清めてやり、バスタオルで拭ったあと、その体を抱き上げてベッドの上へと運んだ。
 そっと仰向けに寝かせてやると、カイジは虚ろに目を開き、ぼんやりとしげるを見上げる。
 その表情は、激し過ぎた快感を未だ引きずっているようで、しげるはクスリと笑うと、半開きの唇の隙間に人差し指をそっと挿し込んだ。

 戯れに口内を掻き回し、陰茎の抽送を髣髴させる淫靡な動きで抜き挿ししてやると、カイジはとろんとした表情のまま、しげるの指を吸い上げて舌を絡めてきた。
 もう、半分眠りに落ちているのだろう。おそらくは完全に無意識でのその仕草に、しげるは飽かず、欲望を刺激される。
 ぴちゃぴちゃと艶めかしく舌を蠢かせて指を咥えるカイジの尻に、猛った肉棒をいきなり突き入れ、微睡みから叩き起こしてやりたい衝動に駆られるが、流石に今日のところはやめておこうと、しげるはカイジの口内から指をそっと引き抜いた。
「おやすみ。……またね、カイジさん」
 やさしい声音で囁いてやると、重たげなカイジの瞼はすぐに落ち、すうすうと安らかな寝息をたて始める。
 しばらくその寝顔を眺めたあと、しげるは猫のようなしなやかさで音もなく立ち上がり、脱ぎ散らかしたものを身につけて、カイジの部屋を後にした。













 しげるがカイジの部屋へやってきた時はまだ真っ昼間だったのに、いつの間にか外は薄闇に包まれていた。
 錆びた階段を下り、しばらく歩いたところで、しげるはふいに立ち止まる。

 前から歩いてきたのは、もうひとりの自分。
 雀荘帰りだろうか。他を寄せ付けない圧倒的に研ぎ澄まされた雰囲気に、しげるは動じた様子もない。
 自分よりいくつか歳上のその男ーーアカギが投げてくる、射竦めるように冷ややかな視線を辿り、あぁ、と声を上げてしげるはクスリと笑った。
「犬の毛が、ついちまってた」
 アカギにも聞こえるようにそう独りごちて、開襟の胸のあたりにくっついていた黒く長い髪の毛を摘み上げ、目を細める。

「遊んできたんだーーあんたの犬と」

 ふっ、と摘んだ髪を吹き散らし、今にも飛びかからんばかりに睨みつけてくる切れ長の双眸に、蠱惑的な流し目を送った。

「ひとりで寂しそうにしてたから、構ってやったらすごく悦んでたぜ。想像してた以上にかわいかったから、つい、いっぱい遊んじまった」

 クスクスと笑いながら意味深な言葉を吐くしげるを、アカギは表情を動かさずにじっと睥睨し続けている。
 しばらくして笑いを収めると、しげるは緩く首を傾げ、ハッキリとした声音で宣言した。

「あんまり、つれなくしてるとさ。ーーあんたの犬、オレのものにしちゃうから」

 相変わらず人を食ったような笑みを浮かべているしげる。
 だが、その目の奥は笑っていない。獲物を狙う肉食獣のように、底知れぬ光を宿している。

 暫し、無言で睨み合ったあと、ふたりの赤木しげるは同時に一歩を踏み出した。

 互いの存在など初めから認識していなかったかのような無感動さですれ違ったあと、
「あ、そうそう」
 ふとなにかを思い出したかのように、しげるは振り返ってアカギの背中に声をかける。
「あんまり、酷いお仕置きしちゃダメだよ。寂しさにつけこんで悪さしたのは、オレなんだから。……怒るなら、オレと、寂しい思いさせた自分自身に怒りなよ」
 のんびりとした声に振り返ることもなく、アカギはカイジの眠るアパートへと、真っ直ぐに歩いていく。
 軽く肩を竦めてその背を眺めてから、しげるはくるりと踵を返した。

 かわいそうに。健やかに眠っているあの犬はきっとすぐに叩き起こされ、これからひどいお仕置きをされるのだろう。
 アカギが自分の言うことを聞き入れることなど、到底ありえない。しげるには、それがよくわかっていた。

 まあ……それはそれとして。
 しげるは、ふっと薄い唇を撓める。

 次はどうやって、あの愚かで健気な、かわいい犬と遊ぼうか?
 恋人だからといって、アカギに独り占めさせる気など更々ない。
 今日みたいにつけ込む隙など、いくらでもあるのだ。

 誰かのものだと思うと余計に、骨の髄まで味わい尽くして自分のことしか見えなくしてやりたくなる。
 その所有者が自分自身だというのなら、なおのこと。

 まるで気に入りのおもちゃを見つけた子供のように愉しげな表情で、しげるは足取りも軽やかに、薄暮の街へと姿を消したのだった。





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