ボール遊び(※18禁)・3
『どこへ行こうかな』などと呟いていた割に、しげるは行き先など最初から決まっているかのように、迷うことなく道を選んで歩き続けた。
数分後、
「……ついた」
そう言ってしげるが見上げた建物の二階には、細長い看板に『麻雀』の文字。
そこはちいさな雀荘で、カイジとしげるが出会った場所でもあった。
「っ、おいっ……!!」
なんの躊躇いもなく階段をのぼろうとするしげるを、カイジは慌てて呼び止める。
「? どうかした?」
「どうもこうもねぇだろっ……! お前、いったいなにする気なんだよっ……!!」
「なにって……普通に、麻雀だけど?」
きょとんと瞬きしてみせるしげるに、カイジは軽い目眩を覚える。
普通の麻雀で済むわけがない。この状況で、この悪童が、なんの企みもなしにこんなところへ赴くはずがないのだ。
「ほら、早く行こうよ」
無邪気ささえ感じさせる声に促され、カイジは頭痛を感じながらも、その後に従った。
店の中に入ると、近くのテーブルに陣取っている若い男たちが、店員に声をかけて三麻で打とうとしているところだった。
どうやら、最後のひとりが集まらなかったらしい。
しげるはカイジの耳許に唇を寄せ、囁く。
「ねぇカイジさん。あの人たちと打ってきなよ」
カイジは弾かれたように顔を上げ、しげるを見た。
「それって、どういう……」
その真意が掴めず困惑するカイジに、しげるは口角を持ち上げると、悪魔のように囁いた。
「あの人たちに勝って、トップで半荘終われたら、コレ、出させてあげる……」
『コレ』と言うのと同時に、中で蠢くモノの振動を一時的に強められ、不意打ちを食らったカイジは「っあ!」と声を漏らしてしまう。
「っ、本当、だな……?」
咳払いで誤魔化しつつ、疑わしげな視線を送ってくるカイジに、しげるはリモコンの目盛を下げ、こくりと頷いてみせた。
「ほら、行ってきなよ。……オレは後ろで見ててあげるから」
しげるがその背をぽんと叩くと、カイジはぶつくさ言いながらも、渋々男たちに声をかけに行った。
自分の体を責め苛む快楽から逃れるために必死なカイジを見るしげるの顔には、ひっそりと、邪悪な笑みが浮かんでいた。
カイジの申し出は受け入れられ、見知らぬ三人の男たちとの麻雀に加わることになった。
会話から推察するに、三人はどうやら、暇に飽かしてたまたまふらっとこの雀荘に立ち寄っただけのようだ。
一方、自分の体、及び精神の安寧がかかっているカイジは、気合いの入り方がまるで別次元のように違う。
その点から言っても、半荘終了時にトップを取ることは、さほど難しくないように思われた。
東一局。カイジは南家。
好調な滑り出しで、カイジはまず2翻の手を自摸和了り。
続く東二局では西家が東家からロン和了りして、カイジの親番となった。
鬼気迫るカイジの様子に他の面子はやや気圧され気味で、そんな気風を反映するかのように、カイジは配牌もツモも近年まれに見るほど調子がよかった。
「ツモっ……! メンタンピンツモ三色、6000オールっ……!」
カイジは着々と点棒を増やしていく。
引き続き、カイジの親番。
配牌は文句なしにいい。相変わらずツモにも恵まれ、カイジは伸び伸びと打っていた。
が、数順後。
カイジは牌をツモった際に、それを取り落としてしまう。
「あ、わ、悪い……」
他の三人には、手を滑らせたようにしか見えなかっただろう。
しかし、真実はそうではなかった。
「……? おい、あんたの番だぜ?」
「っ……」
促され、やっとの事でカイジは震える指を牌に伸ばすが、今度は肘で自分の牌を倒してしまう。
「あっ」
「おいおい、大丈夫かよ……」
慌てて牌を直しながらカイジは何度も頷いたが、その額には汗が光り、顔は真っ赤に染まり、呼吸も荒い。
「あんたまさか、具合でも悪いのか……?」
今までとは別人のような豹変ぶりに、三人はざわめき始める。
なんでもねえっ……! と突っぱねて、恨めしそうな目をしたままでカイジは勝負を続行させる。
その異様な様子に、若干引き気味で目配せし合う三人の男たちを、カイジの後ろで、しげるがただ一人ほくそ笑んで眺めていた。
結局、カイジの親はあっさりと蹴られ、その上次の局で親に満貫振り込んでしまい、12000点支払わされる。
最初こそよかったはずなのだが、東場を終えてみるとカイジは最下位。だが、その麻雀以上にボロボロなのは、カイジ自身だった。
途中から急に様子のおかしくなったカイジを、他家はしきりに心配して声をかけている。
深く背中を丸め、なにかに堪えているカイジの肩を、しげるは後ろからぽんと叩いた。
「カイジさん、ちょっと出ようか。気分転換に」
カイジはゆっくりと顔を上げ、虚ろな目でしげるを見上げる。
その視線を受け止め、しげるは含みのある笑みを返した。
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