ボール遊び(※18禁)・2


「ね、カイジさん」
「……」
「お腹、空いてない?」
「……」
 街を歩きながら、しげるはカイジに話し掛ける。
 だが、カイジは体の中にある異物が気になって仕方ないのと、この異常な状況を作り出したしげるへの怒りで、むすっと押し黙ったまま返事をしなかった。
 しげるは眉を上げると、カイジに気取られぬようポケットに手を突っ込む。
「ねぇ、カイジさんってば」
「ーーッ!! ん、んぅ……っ!」
 突然始まった振動に、カイジは体をびくつかせて立ち止まってしまう。
 蒼白になって周りを見渡し、怯えた目で縋りつくように自分を見るカイジに、しげるは無慈悲な笑みを浮かべると、リモコンのつまみをすこしずつ『強』の方へ押し上げていく。
「ぅ、あっ! は、あっぁ……」
「腹減ってない? って訊いてるんだけど」
 否応なしに性感を煽られ、眉を顰めて声を殺すので精一杯なカイジは、震える自分の体を抱き締めるようにして押さえつつ、しげるの質問になんとか答えようとする。
「へ……、減って、ねぇっ……! ぁ、あぅ、」
「ふーん……」
 そう呟いてしげるがスイッチを切ると、カイジは涙目で呼吸を荒げながらも、ほっとしたような表情を見せる。
 しげるはクスリと笑い、
「でも、オレは腹減ってるから、なにか食いに行こうよ。なんでも奢ってあげるよ」
 そう、上機嫌に言うその声は、今のカイジにとっては悪魔の囁き意外の何物でもなかった。








 いらっしゃいませー、という威勢のいい声に迎えられ、ふたりは近くにあった中華料理店に入った。
 ここは安くて量も多く、味も悪くないため、カイジが贔屓にしている店だ。

 セルフサービスの水を汲んできて、ふたり掛けの席に着くとすぐに店員が注文を聞きに来た。
「塩ラーメンの半チャンセットひとつ。それと煮玉子。……カイジさんは?」
 それとなく訊きながら、しげるは密かにリモコンのスイッチを入れる。
 一気に真ん中を越える辺りまで強弱の目盛を上げ、澄ました顔でカイジの様子を窺う。
 カイジは肩を怒らせて前のめりになり、真っ赤に染まった顔でうつむいていた。
 様子のおかしいカイジに、店員が眉を寄せる。
「カイジさん、どうしたの。具合でも悪い?」
 白々しく心配した風を装ってしげるが問いかけると、カイジは首を横に振り、メニューを開いて震える指でチャーシューメンを指し示した。
 一見ひどく無愛想にも見えるその態度に、若い男の店員は明らかにムッとしたような表情を見せたが、かしこまりました、とぼそぼそ言って、席を離れた。

 ぴくぴくと体を跳ねさせては、噛み締めた唇の間から切なそうな吐息を漏らすカイジに、しげるはうすく笑い、目盛を『弱』に切り換えてやる。
「店の人、怒ってたよ? 注文くらい、ちゃんと自分の口から伝えないと」
 そんな、最もらしいことをしげるはカイジに諭すが、そうなった原因は間違いなくしげる自身なので、カイジは不機嫌そうに舌打ちする。
 だが、しげるの指一本で、いつまたあの快楽地獄へ突き落とされてもおかしくはないので、カイジはそれ以上の反抗もできず、ただただ押し黙るしかなかった。




 注文の品が届いても、カイジはいっさい箸をつけようとはしなかった。
「食べないの?」
 もりもりとチャーハンを食いながらしげるが尋ねても、カイジは首を横に振るだけ。
 それもそのはず。カイジの体の中のちいさなボールは、さっきからずっと絶え間なく微弱な振動を続けているのだ。
 性感帯を擽られつづけながら飯を食うなんて常軌を逸した真似、カイジにはとてもできそうになかった。

「すこしでも、腹に入れといた方がいいと思うけど……。なにせ今日は、長い一日になりそうだからね」

 ニヤリと笑ってしげるが呟いた、最後の一言に寒気を感じつつも、カイジは再度、首を横に振る。

 結局、しげるは半チャンセットを平らげ、カイジは伸びきったチャーシュー麺をまるのまま残して、ふたりは店を出たのだった。



 

「次は、どこへ行こうかな」

 暢気にそんなことを言うしげるのすこし後ろを、カイジはひたすら無言のまま歩いていた。

 口を開いてもしげるを呪うような言葉か、あるいは『もう帰りたい』などという情けない弱音以外出てこなさそうだった。
 そんなものしげるに聞かれようものなら、またあの恐ろしい時間がやってくるに違いない。

 カイジは完全に恐れに呑まれていた。しげるの動向に怯え、自身で言葉さえ封じてしまった。

 ボールはカイジの中で相変わらず細かに震えており、快感を堪えるためにひどく歩き方がひどくぎこちなくなる。
 それだけではない。休むことなく感じるところを弄くられ続けているせいで、ジーンズの前の方もぱんぱんに膨れ上がってキツく、とろとろと溢れ出る濃い我慢汁が下着を濡らし、なんともいえない不快感がカイジを襲っていた。

 敏感な鈴口が下着に擦れると、思わず声が漏れてしまいそうな甘い疼きが生まれる。カイジは苦しげな息を繰り返しながら、なんとかしげるについていくので精一杯だった。




 しばらく歩いたところで、しげるがいきなり振り返ったので、カイジはビクッと肩を竦ませた。
 しげるは足を止め、カイジに向かって首を傾げてみせる。
「どうしたの? そんな後ろを歩いてないで、もっと前に出ておいでよ」
 カイジは目線をしげるから逸らしてきゅっと下唇を噛んだが、ポケットに突っ込まれたままのしげるの右手を見て、のろのろと歩を進める。
 苦労しながら歩くカイジの様子を、しげるは黙ったまま眺めていたが、カイジが傍にやってくると、やにわに腕を伸ばしてその腰に触れた。
「やらしい……腰、揺れてるよ……?」
「!!」
 羽毛で擽るようにそっと撫で上げると、カイジはもともと赤い顔をさらに真っ赤にする。
 快感に疼く体は無意識のうちに腰を揺らめかせ、下着に勃起したモノを擦りつけ、尻の中のボールをもっと強く前立腺に押し当てようとしていたのだ。

 自分でも気づかなかったその卑猥な動きを指摘され、泣き出しそうに顔を歪めるカイジを、しげるは横目で愉快そうに眺めていた。



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