apron・1(※18禁) しげカイ 食物挿入注意 裸エプロン アホエロ



 ほら、よくあるじゃねえか。男友達どうしで、こういうのの貸し借りとか。これ、凄かったぜーーとか、お前の趣味ねぇわーーとか、感想言い合ったり。
 まぁ……そういう友達って今までいたことないからよくわかんねぇけど、普通の男友達ってのは、そういうもんなんだろ? いや、あくまで、想像だけど。

 だから、オレも焦ることなんてなにひとつないはずなんだ。

 部屋に上げてやるほど仲の良い男友達に、ついうっかり管理も甘く本棚なんかに差しっぱなしにしていたお気に入りのエロDVDを目敏く発見された。

 相手は『男友達』と言えるような間柄でなないけれど、この際細かいことはいい。
 とにかく、今はそれによく似た状況なわけで、からかわれて「バレちまったかー」なんて羞恥心を隠すため苦笑いしたり、「面白そうじゃん貸してよ」なんて言われてお前も好きだなーなんて言いながら快く承諾してやったり、よくわかんねぇけど普通男同士ならそういう展開は日常茶飯事なんだろ、だから今のこの状況はーー

「カイジさん」
「ふぁい!?」

 絶賛現実逃避中、平らな声に呼びかけられて、カイジは裏返った声で返事をする。
 テンパりようが半端ないカイジに見向きもせず、しげるは手の中の薄く四角いパッケージを、ためつすがめつじっくりと観察していた。
 しげるがパッケージを裏返すと、『巨乳新妻の裸エプロン』という恥も外聞もないようなタイトルと、真っ白でヒラヒラしたエプロンを素肌の上に纏い、もの欲しげな表情でこちらを見詰めるAV女優がカイジの目に入る。
 いたたまれなくなって思わず目を逸らすカイジに、しげるが問いかけた。

「ねぇ、なんでこの人、裸の上にエプロンだけつけてるの?」
「えっ……」

 カイジが思わず顔を上げると、しげるは不思議そうな顔で瞬きを繰り返していた。
 その無邪気な様子にカイジはぽかんとする。
「お前……知らねぇのか? こういうの」
「こういうの? こういうのって、なに?」
「ぅえ!? えっと……だな……」
 まっすぐに問い返されて返答に窮しているカイジの顔を、しげるはじっと見詰める。
「エプロンつけてたってさ、その下が裸だと意味なくない? こんな格好で料理なんてしたら、危ないでしょ。火傷とか……」

 ーーこいつ、本当になんにも知らねぇのか?

 真剣な様子のしげるにカイジは驚愕したが、考えてみればしげるはまだ十三歳。小学生に毛の生えたような年齢だ。
 いくら物事を達観しているようなところがあるとはいえ、こういう知識はまだまだ少ないのかもしれない……
 と、思いかけて、いやいや、とカイジはそれを打ち消す。
 その十三歳にいつも好き勝手弄ばれてるのは、他ならぬオレじゃねぇか。どこで身につけてくるのかは知らないが、会うたびに新しい性戯で翻弄してくるようなエロガキが、裸エプロンを知らないわけがない。
 大体、しげるは見ているはずなのだ。パッケージの裏面の惨状ーー上下の口で男根を咥えこんでよがる女優の写真を。それを見れば、このDVDの用途はサルにだってわかりそうなものだ。

 つまり、しげるはぜんぶわかっていて、カマトトぶっているに違いない。なんにも知らないふりをして、オレの羞恥心をことさらに煽って愉しむために、わざと。


 そうに違いない、とカイジはしげるを睨みつけるが、しげるの方は頭の上に『?』をたくさん浮かべているような表情でカイジの顔を覗き込んでいて、その子供のように純粋な眼差しに、
(もしかしてこいつ、本当になにも知らないんじゃ……?)
 という考えに、だんだん心が傾き始める。


「ねぇ、カイジさん。教えて? なんでなの?」
 無垢な声で重ねて問われ、カイジは唸った。
「っあ〜、あのな。いいんだよ。この人は料理なんてしねぇから、危なくねえんだ……」
 ぼそぼそと答えると、しげるは驚いたように目を見開く。
「この人、料理しないの? じゃあなんで、エプロンつけてるの?」
「う、ううっ……」
 カイジは顔を赤くして口篭もる。

 身を乗り出して返答を待つしげるの、やけにきらきらした瞳を見ていられなくて俯いていると、間近にあったしげるの気配が、突然、ふっと離れていった。
 恐る恐る顔を上げると、なんとしげるは、パッケージから取り出したDVDをデッキに挿入しようとしていたのだ。
「うわーーっ!! お、おま、なにやってんだっ……!!」
 飛びかかるようにして円盤を奪い取ろうとするカイジをひらりとかわしながら、しげるは淡々と言う。
「だって、あんた教えてくれないから。これ見たらわかるんでしょ?」
「ば、馬鹿やろっ……!! ダメだって……!!」
 カイジに邪魔されながらも、しげるはDVDをデッキに無理矢理押し込むと、テレビの電源を入れる。
「わーーっ!! わーーっ!! わーーっ!!」
「カイジさん、うるさい」
 大声で喚き散らしながら主電源を落とそうとするカイジの体を、しげるは全力で床に押さえ込む。
 そうこうしている間に画面が切り替わり、DVDの再生が始まってしまった。
「うわぁぁっ! み、見るなぁっ……!!」
 ゆでだこのような顔で、カイジはしげるの目の上に手のひらを被せようとする。
 煩わしげにそれを避けながら、しげるは画面をじっと見詰める。

 そこでは、新妻に扮したポニーテールの女優が、初々しい笑顔でスーツ姿の男優を家に迎えるという、朗らかなシーンが繰り広げられていた。
「なんだ……普通のドラマじゃない」
 つまらなそうに言いながら、しげるはリモコンの早送りボタンを押す。
「ばっバカ……!! 早送りなんてしたら……っ!!」
 悲鳴じみた声を上げるカイジを無視し、早回しになった画面はあっという間に朗らかなシーンを通り過ぎ、なにやらいかがわしい場面に突入していく。
 そこでようやくしげるが再生ボタンを押すと、画面いっぱいに男優と女優の生々しいキスシーンが大写しにされた。
 男優が女優を後ろから抱き締め、ぴちゃぴちゃといやらしい音を響かせ舌を絡め合いながら、エプロンの脇から零れ出る豊満な乳房をやわらかく揉みしだいている。
「……」
「あああ……あ……」
 いきなり始まった痴態を驚いたような顔でまじまじと凝視するしげるに、カイジは絶望的な声を上げて床の上をのたうちまわる。
 苦悶するカイジをよそに、液晶画面の中では前戯が着々と進行していった。
 男優が白い太股を撫で回し、薄いエプロン生地に隠された蜜壺を指で弄くると、女優の口から艶めいた声が漏れ始める。
 カイジはこの女優の、甘過ぎない喘ぎ声が気に入っていたが、今この状況では悪魔の声にしか聞こえない。
 指の動きが激しくなるにつれ、女優の声も大きくなり、ついには高く鳴いて絶頂に達しーー画面の前で、カイジは絶望のどん底に突き落とされていた。

 いったいどんなことを思っているのか、無言のポーカーフェイスで画面を注視しているしげるの眼前で、男優が立ち上がってズボンと下穿きを脱ぎ捨てる。
 いきり勃った男根に手を添えて男優が促すと、恥ずかしげに目を伏せながらも、女優はすぐにそれを口に含んだ。
 ちいさな口をめいっぱいに使い、上目遣いでカメラを見上げながら、新妻らしからぬ慣れた手つきで雄を高ぶらせる。
 やがて、男優が女優を止め、台所のシンクに手をつかせ、足を開かせる。
 後ろからだと霰もなく丸見えになっているお尻の下、濡れそぼったソコに自身を宛てがい、上擦った声で要求する。
『ほら……どこになにが欲しいか、言ってごらん?』
『いやぁ……そんなの、恥ずかしくてできない……』
 困ったように振り返り、首を横に振る女優。
 だが、男優が焦らすように腰を揺らしながら、
『ダメだよ……ちゃんと言わないと、してあげないよ?』
 などと陳腐きわまりない台詞を吐くと、女優が観念したように哀れっぽい表情で、桃色の唇を開いた。
『あ、あなたのーーーー』

 そこで、ブツリとテレビの電源が切られた。
「あ……」
 思わず肩透かしを食ったような声を漏らしてしまい、慌てて口を噤むカイジをよそに、しげるは深くため息をついた。
「……なるほどね」
 今の今まであんなものを見ていたにも関わらず、冷静すぎるその声に現実に引き戻され、急激に冷えていくカイジの頭の中にふたたび絶望が蘇ってくる。
「う……うぅぅ……」
 人間としての尊厳が著しく損なわれたような気分で、カイジは肩を震わせて静かに涙を流す。
 もうしげるに体を押さえ込まれてはいないが、起き上がる気すら起こらず、いっそこのまま死んじまいたいとさえ思う。

 カイジがしくしくと泣き続け、床に水溜まりができた頃、しげるが口を開いた。

「ねぇ。カイジさん、裸エプロンやってみてよ」
「……っ!!??」

 カイジがガバリと顔を上げると、目の前にしげるがしゃがみ込んでいた。
(……聞き間違いか? 今、信じられないようなことを言われたような気がする……っ)
 などと、静かに混乱しているカイジに、しげるはしれっと重ねて言う。
「見てみたい……あんたの、裸エプロン」
「ぐっ……!?」
 今度は聞き間違いなどで誤魔化しようのないほどはっきりと言い放たれ、カイジは絶句した。
 だが、揺れないしげるの表情からどうやらふざけているわけではないことを読み取ると、取り乱しつつもその顔を睨みつける。
「だ……っ、誰がするかっ、そんな真似っ……!! オレは男だぞっ……!! 狂ってるっ……!!」
「ふふ……、狂気の沙汰ほど面白い……」
 しげるは口端を吊り上げると、カイジの顔に顔を近づける。
 息がかかるほどに距離をつめられ、息をのむカイジに、しげるは低く囁く。

「いくらでやってくれる?」
「は……?」

 ぎゅっと寄せられる太い眉根に、しげるはさらに声を落として続ける。
「いくら、払えばやってくれるの……?」
「あぁ……!?」
 悪魔の囁きに、ざわ……と心を動かされそうになりつつも、カイジは首を強く横に振った。
「ふ、ふざけるなっ……!! 金の問題じゃねぇ!! たとえいくら積まれようとも、男のプライドにかけて、ぜったいにやらねえからなっ……!!」
 唾棄するように言いながらも、でかでかと『金が欲しい』と書いてあるカイジの顔をじっくりと眺めたあと、しげるは立ち上がった。
「ーーわかったよ。じゃあ、またね。カイジさん」
 そして、そのまま玄関に向かうしげるに、カイジは慌てて声をかける。
「……って、お前、泊まってかねえの?」
 意外そうなカイジの声に、しげるは振り返る。
「ちょっと、することができたから」
 そう言って薄く笑い、しげるはあっという間に姿を消した。

 バタン、と玄関の扉が閉まる音を聞きながら、カイジはしばし、呆然としていた。



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