夕間暮れの秘め事(※18禁)・1 しげカイ 「昼下がりの情事」の続き エロのみ




 その日、カイジが帰宅すると、玄関に薄汚れた白いスニーカーが脱ぎ捨ててあった。
 カイジは軽く目を見開き、靴を脱いで部屋に上がる。
「……しげる?」
「おかえり、カイジさん」
 ベッドに腰掛けていた白髪の少年が、カイジの顔を見て声をかけた。
「……お前、来てたのかよ」
 ため息まじりにカイジは言う。

 カイジはしげるに、この部屋の合鍵を渡してある。
 このアパートに住み始めたとき、大家から渡された二本のスペアキーのうちの一本だ。
 夜の街をほっつき歩き、暴力沙汰が日常茶飯事の危なっかしい中学生には、いざとなったら逃げ込む場所も必要だろうというお節介で、半ば無理やり握らせたのである。
 ちなみに、もう一本はというと、言わずもがな恋人である十九歳の赤木しげるが所有している。

 反射的に、カイジはしげるの体に目を走らせる。
 どこも怪我していないし、服も清潔だ。
 どうやら、今日は喧嘩のあとじゃないらしい。

 カイジはホッと息をつき、ネクタイの結び目に指を入れる。
 しげるはカイジの頭から足の爪先まで目を走らせたあと、
「めずらしいね、ちゃんとしたカッコ」
 と呟いた。
「あぁ……まぁな……」
 カイジも自分の体に目を落とす。

 新しいバイトの面接を終え、帰ってきたところなのである。
 絶賛無職中のカイジは、前のバイトの給料を酒とギャンブルで早々に使い込み、生活に逼迫していた。
 明日食べるものにも困るような状態になってようやく重い腰を上げ、求職活動を始めたのだが、なぜか面接で落とされ続け、『お祈り』の電話やメールが五件を越えるころには、流石のカイジも焦り始めた。

 今回の面接は、落とされるわけにはいかない。
『背水の陣』に図らずもなってしまったカイジは、とりあえず職にありつくためにできることすべてをやろうと、クローゼットに眠っていた一張羅のスーツを引っ張り出したのであった。


 腐った気分を切り替えるように、カイジはしゅるりと音をたててネクタイを引き抜いた。
 ワイシャツの首許を緩めていると、しげるの双眸が自分をひたと見据えているのを感じ、カイジはたじろぐ。
「な、なんだよっ……?」
 この間、ひょんなことからしげると肌を重ねてしまい、その気まずさで、カイジはしげるの顔をまともに見ることができないでいた。
 ぎこちなく視線を逸らすカイジの耳に、とんでもないしげるの発言が飛び込んでくる。

「ねぇ。こないだみたいなこと、しよう」

 カイジは鋭く息を飲んだ。
「こないだみたい、って……」
「オレのをカイジさんに入れて、いっぱい動いて、きもちよくなるやつ」
 これ以上シラの切りようもないほどの生々しい表現で返されて、カイジは閉口する。
 顔が赤くなっていないだろうかと危ぶみながら、場を仕切り直すように、咳払いをひとつした。

「……あれは本来、男同士でするもんじゃねぇんだよ」
「あいつだって、カイジさんとしてるじゃない」
「……」
 十九歳の赤木しげるとの関係を持ち出され、カイジはぐっと言葉に詰まる。
「と……とにかくっ……! もうアレはダメっ……! お前みたいなガキには、百年早ぇんだよっ……!!」
 喚くように言って、この話は終いだとばかりにしげるを追い払うような仕草をするカイジ。

 しかし、このちいさな悪漢が、それで諦めるはずもない。
「それじゃ……こういうギャンブルならどう?」
 しげるは表情を微動だにさせぬまま、軽く握ったこぶしをカイジの前に突き出す。
「ジャンケン。オレが勝ったら、カイジさん。服、一枚脱いで」
 ギョッとして、カイジは目をぱちくりさせる。
「お前、それって野球……」
「で、カイジさんが勝ったら、これ一枚あげる」
 カイジのツッコミを遮るように、しげるはスラックスのポケットからくしゃくしゃになった一万円札を取り出した。
 諭吉の顔を見せつけるように突き出され、カイジは「うっ」と唸る。

 ……その金、本当は喉から手が出るほど欲しい。
 しかし、負けたら服を脱ぐなんて、そんなギャンブル……
 それに、相手はこの悪魔のような中学生だ。勝ち目なんて……

 激しく揺さぶられる心を鎮めようと、否定的な要素を頭の中で並べ立てるカイジだったが、その思考とは裏腹に、大きな両の瞳は万札に釘付けになっていた。
 まるで餌を前にしてダラダラ涎を垂らす腹ペコの野良犬のような表情に、相手の陥落を確信したしげるは、ふっと笑ってダメ押しの一言を口にする。
「どうしたの。まさか……怖気付いた?」
 願望と理性の狭間で揺れ動くばかりだったカイジの表情がサッと変化し、揺らがぬ強い瞳がしげるを捉える。
「抜かせっ……! どうせ中坊には必要ねぇ額持ち歩いてんだろっ……! 全財産、むしり取ってやる。後悔するなよっ……!!」
 ギラギラとした声と表情に、しげるは獲物を完全に捕えたことを知り、愉快そうに肩を揺らした。



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