off the rails(※18禁)・2



「あ……はっ、ぁ、アカ、っ……」

 薄暗く湿った空間に、押し殺した嬌声がこだまする。
 カイジは壁に背を預け、床に膝をついたアカギに自身をしゃぶられていた。
 あたたかい口内に含まれる快感に身をよじらせ、白い頭を見下ろしながら、カイジはニヤリと笑う。
「はは、お、前……っ、ザーメンまみれのちんぽなんて、よくしゃぶれるよな……ッ、う……っ」
 なにせ、電車の中でさんざ酷いことをされたのだ。
 悪態のひとつでもついてやらないことには気が済まないと、トイレの個室へと誘った自分のことを棚に上げてアカギを嘲笑するも、するりと後ろに回された手で尻を揉みしだかれ、言葉を詰まらせる。

「ここ……」
「んっ、あ、」
「電車の中にいるときからずっと、ここにオレのを挿れたくて、たまらなかった……」
 唾液と先走りで濡れた人差し指がつぷりと入り込んできて、カイジは堪らず喉を反らして喘ぐ。

「ねぇ……挿れていい? カイジさん」
 ぐちゅぐちゅと浅いところを抜き挿しされ、焦らすようなむず痒さに耐えかね、無意識のうちにカイジは幾度も頷いていた。
「あっ、あ、い、いい……から、来いよっ……!」
 まだ慣らしが甘すぎることはわかっていたが、ヒクヒクと疼く後ろを一刻も早く太いモノで埋めて欲しくて、カイジは融けた瞳でアカギを誘う。
 目を細めてその視線を受け止め、アカギは立ち上がってカイジの腰を引き寄せた。
「変態」
「お前だろ……っ」
 揶揄する声に言い返せばクスクスと笑われ、壁に手をつくよう促される。

 カイジが言われた通りの体勢をとり、剥き出しの尻をアカギの方へ突き出す格好になると、羞恥を感じるよりも早く硬いモノが双丘の割れ目に押し当てられ、カイジはゴクリと唾を飲み込む。
 布越しではなく、生でぬるぬると擦り付けられる感触。
 アカギ自身も先走りで濡れていることを感じ取ったカイジの口から、熱い息が漏れる。

「挿れるよ?」
 返事を待たずに、熱い肉棒がカイジの中にズズ……ッと押し入ってくる。
「あ……あぁ、あ、」
 まだ狭い中をアカギのモノで無理やり押し広げられていくような、苦痛と紙一重の快楽がカイジを容赦なく襲う。
「すげ……あんたの中、オレのに食らいついて、離れねぇ……」
 熱い息とともに吹き込まれるそんな言葉にも、カイジは感じて後ろをきゅうきゅうと締め上げてしまう。

 腰を強く掴まれたまま、にゅるっ……にゅるっ……と抽送を繰り返される。
「あっ……あっ……、ぁ、んっ……」
 一突きごとに体の奥までアカギで満たされ、脳まで犯し尽くされていくような快楽に、カイジは開きっぱなしの口から甘い声を垂れ流す。
「そんなに声出して、いいの……? 誰か、入ってくるかもしれないのに……」
 その言葉とは裏腹に、アカギの動きは激しさを増す一方で、パンパンと乾いた音をたてて腰を打ち付けられてカイジはまともな思考ができない。

 もう、誰に聞かれたって構うもんか。
 完全に理性の焼き切れたカイジは、快感に濁った瞳でアカギを振り返り、はぁ、はぁ、と荒い息の合間に叫ぶ。

「っ、いい、いいからっ、もっと……っ!」
「……ッ」

 目と目が合った瞬間、アカギの表情がより凶暴なものへと変化する。
「ひ、アぁっ……!! あっあっ、あぁっ……!!」
 ぐちゅぐちゅと卑猥な音をたてながらの激しいピストンに、カイジは背を仰け反らせ、涎を垂らして喘いだ。
 足も腰もガクガクと震え、アカギの支えなしではとても立っていられない。
「あ……っ、いっ、イく……ッ、も、出るっ……」
 陰茎の先端からぴゅくぴゅくと先走りを漏れさせながら、カイジは涙目で限界を訴えた。
 すると後ろから体を強く抱きしめられ、耳許に掠れた声を吹き込まれる。
「オレも……、もう、イきそう……」
 そう呟いた直後、項に強く歯を立てられ、ゾクゾクするようなその痛みでカイジは二度目の精を壁に向かって勢いよく迸らせた。
「あ、ァ、ふぁ……あ、っ……!」
 二度目とは思えないほど濃い精液でびゅくびゅくと壁を汚しながら、カイジは気の遠くなるような射精の気持ち良さに酔い痴れていた。
「カイジさん……っ、」
 カイジがイったすぐあとにアカギが低く呻き、カイジの中に熱いものが放たれる。
「あッ! ……かやろぉ……っ、中出し……っ、……ん、んぅ……っ」
 目をつり上げたカイジが振り返ってアカギを責めようとすると、それを阻止するように唇を塞がれる。
 ドクッ、ドプッ……と溢れそうなほど注がれる精液の感触に体をぴくぴく反応させながら、カイジはいつしかアカギの舌に舌を絡めていやらしい口付けに惑溺していた。
 腹のなかが重く、あたたかい。すぐに不快に変わるとわかっているはずなのに、今はそれがやけに心地よく感じられて、カイジは密かに、ホッと息をついた。



 食べるように互いの舌を貪りあったあと、透明な糸を引きながら、アカギの唇が離れていく。
「駅近くに、ホテルあるから……」
 それだけ呟いて、アカギはカイジを至近距離でじっと見つめる。
 そこで後処理してやる、とでも言いたいのだろうか。
 アカギのことである。それだけで済むはずもないということはわかりきっていたが、かと言って、この惨状のまま公共交通機関を使ってアパートへ帰るわけにもいかない。

 カイジは渋々、こくりと頷いた。
 態度とは裏腹に、まるで期待してしまっているかのように高鳴ってしまう鼓動を、アカギに聞かれないかとそわそわしていると、アカギはさっき歯を立てた項に、つう、と指を滑らせてきた。
 チクリとした痛みが走り、そこに歯型が残ってしまったことをカイジは知る。
 渋面になるカイジをよそに、アカギはなぜか満足げな顔で、ひとつに束ねられたカイジの髪に顔を埋めると、黒いゴムを咥えてそっと引き抜いた。
「ってて……なにやってんだよ、お前……」
 傷んだ長い髪をゴムに巻き込まれ、痛がるカイジに構うことなく、アカギはカイジの髪を解いて歯型のついた項が髪で隠れたのを確認すると、ゴムを床に吐き捨ててしまった。

「お前なぁ……マジやめろよ、あぁいうの……」
 絶頂感が去り、多少、冷静さを取り戻したカイジは、自分の晒した痴態を思い返して気まずくなりながらも、ため息混じりにアカギをたしなめる。
「知らねぇヤツにやられてるのかと思って、最初、死ぬほど気色悪かったんだからな」
 ぶつくさとカイジが文句を言うと、アカギはすこし眉を上げたあと、ニヤリと口端をつり上げた。
「『知らねぇヤツ』じゃなくてさ。最初からオレだってわかってたら、ああいうことされても、いいの?」
「あぁ? ……ンなわけあるかっ」
「でも、あんた、興奮してた」
 淡々と言葉を区切りながら事実を指摘され、カイジはかぁっと赤くなりつつも、なんとか平静を取り繕ってアカギに言う。
「……とにかく、二度とやんなよ、あんなこと」
 重々しくカイジが告げると、アカギはすこしの間をおいたあと、
「善処するよ」
 そう、ぼそりと呟く。

「ぜ、善処ってーー」
「そんなことよりも、あんたさ」
 猛烈なツッコミを煩そうに遮られ、カイジは続く文句をぐっと飲み込んだ。
 揺れない瞳でカイジをじっと見つめながら、アカギは静かな声で問いの続きを口にする。

「あんた、なんで、泣いてたの」

 その質問の意味を、カイジはすぐに理解できなかったが、やがて電車のホームでの姿を見られていたのだということに思い至り、すこし顔を赤くした。

 泣いてねぇよっ、と否定しかけて、しばし口ごもる。
 確かに、泣いてはいなかった。だけど泣きそうになっていたのは事実だし、そんな自分に苛立ってもいた。
 新しいバイトの面接で、経歴を見るなり、なにも知らない相手に自分の生い立ちからなにから、すべてを全否定された。そんなことにはもう慣れっこだったけど、悔しくないと言ったら嘘になる。
 悔しさも怒りも、感情の高ぶりはすべて涙になって表に出てしまう自分も、ものすごく嫌だった。さすがに面接官の前では泣かなかったけど、帰りのホームで不覚にも涙が滲みそうになっていたのは確かだ。

 だけど、そんなくだらないこと、すっかり忘れていた。
 強引に忘れさせられた。この、悪魔のような恋人に。

「……もう、忘れた」

 なんだか気が緩んで、同時にどうしようもなく腹が立ってきて、投げつけるようにカイジが言うと、アカギはなぜか嬉しそうに笑って、カイジの頬に唇を触れさせたのだった。






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