ドライブ(※18禁)・4



 数十分後。
 ヤクザの運転する黒塗りの車は、都内のとある料亭に到着した。

 ギアをようやくパーキングに入れることのできた石川の部下は、そのまま放心状態で虚空を眺めている。
 本来であれば、すぐに降りて後部座席のドアを開けるのが舎弟の仕事なのだが、今回ばかりは不問にしてやろうと石川は思った。
 あの地獄の珍道中を、無事故で走破できただけでも、労ってやるべきことなのだ。

 石川はバックミラーに視線を移し、諸悪の根源に声をかける。
「……着いたぞ。約束どおり、代打ちは引き受けて貰うからな」
 部下の精神崩壊という高すぎる代償を払ったのだ。
 ここで気まぐれなど起こされてはかなわないと釘を刺す石川の言葉を聞き流しながら、アカギは悠長に煙草をふかしていた。
「この人、どこかの空き部屋にでも転がしといて下さい」
 いまだ後ろ手に手首を縛られたまま、男根に貫かれている体をヒクヒクと痙攣させている男の髪を梳きながら、アカギは言う。
「手ェ出したら殺すぜ」
 底冷えのするような声で付け加えるアカギに、誰がそんなことするか阿呆、と石川は心の中で毒づく。

 確かに、この快楽にだらしない長髪の青年は、ある種の性的倒錯者の目には堪らなく魅力的に映るのだろう。
 酸いも甘いも噛み分けた極道者の中には、そういう手合いも少なからず居ることは確かだ。
 だが、赤木しげるの情人だと知っていながら手を出す愚か者など、この裏社会に居るはずもない。

 ……そんなことは口に出す気すら起こらず、石川はため息混じりに車を降りると、組に勝利をもたらす白い悪魔のため、若頭直々にスライドドアを開けてやるのだった。






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