潮騒
カイジと肌を重ねるとき、しげるは海を思い出す。
唇を噛み締めて瞑目し、快楽に耐えている表情を、硬い肉茎で穿つことで突き崩していく。
徐々に息が上がり、唇が薄く開かれ、揺れる黒い瞳が瞼の下から覗く。
弱りきっているような寄る辺ない表情、高くなる嬌声。
執拗に与えられる快感に耐えかね、震える二本の腕がしげるの背にすがりついてくる。
きつく抱きしめられ、隙間なく重なり合った体からどくどくと熱い鼓動が伝わるとき、ふっと胸が狭くなるような潮の匂いが鼻先を過ぎって、しげるはチキンランで飛び込んだ、嵐の海を思い出すのだ。
ひどく生々しい心のざわめき。過敏になっていく肌感覚と、生を求める本能の疼き。
骨が軋むほど強く縋りつかれ、密着した腰を激しく振りながら、しげるは深く息をつく。
この人の中には、海があるのかもしれない。
塩辛い水がとめどなく溢れるのは、それが一滴一滴、溢れ出しているから。
未熟で乱暴な肉欲を受け容れてくれる度量の広さも、水気が多いくせに深く潜れば潜るほど乾きが酷くなるのも、海そのもののようだ。
だからいつも引き寄せられる。潮騒のような脈動を持つこの人に。
寄せては返す波のように、どんなに離れようとしたって、いずれ必ず引き寄せられてしまう。
べたべたに濡れた頬を舐めると、紛れもない海の味がした。
そのまま、流れるように唇を吸えば、すぐさま絡んでくる健気な舌に見境なく溺れてしまいそうで、しげるの心もまた、激しい波に揉まれ続けているのだった。
終
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