Hyperthermia(※18禁)
たとえば、制服から伸びるしなやかな腕だとか。
血が通っているのが不思議なくらい白い首筋だとか。
この季節は、普段見慣れているはずのものが全部、視線を絡めとる罠になる。
しげるとふたりきりの部屋。
夏服の小さなボタンを開けていく指から視線を逸らし、カイジは自分を諌めるように軽く目を閉じた。
しかし脳は、暑さにゆるく息を吐くしげるの、浮き上がった鎖骨を勝手に想像してしまう。
貼り付いてしまいそうな喉を湿らせるため、唾を飲む。
その音が、しげるに聞こえないように細心の注意を払いながら。
だがそんなことは所詮、無駄な努力であることを、カイジはよくわかっていた。
情欲というのはどうやら空気伝道するようで、どんなにうまく隠したつもりでも、相手に伝わってしまう。
聡いしげるが、カイジの欲望に感づいていないわけがない。
欲情しているのはしげるも同じようで、視線を合わせてすらいないのに、カイジにも手に取るようにしげるの欲が伝わっていた。
肌を焦がすようなそれに、頭がぐらぐら沸き立つ。
南中に向けて気温がぐんぐん上がる中、この部屋の空気は見えないふたりの欲で重く、湿っている。
強い夏の日差しに肌を焼かれることもおかまいなしに、しげるは窓際に腰掛けて外を眺めている。
寛げられたシャツの首元。
目線を上げたとき、そこから覗く透き通るような肌の色に目を奪われ、カイジは慌ててうつむいた。
しげるは熟知しているのだ。
光がもっとも強くなるこの季節、自分がどんな風にカイジの目に映るか。
その肌の生々しい白さが、カイジの目をどれだけ眩ませるか。
すべてわかっているから、この暑い中その肌を惜しげもなく陽光に曝している。
しげるの一挙手一投足が、カイジを誘引するための計算し尽くされた罠なのだ。
そのくせしげるは、自分からは決定的なことを絶対に口にしない。
カイジの我慢がそんなに長続きしないことをわかっているから、ただひたすら自分のもとにカイジが落ちてくるのを手ぐすね引いて待っている。
そこまでしげるの思考をわかっていながら、カイジはどうしてもしげるの方を気にせずにはいられない。
清潔そうに乾いた制服。そこから延びる腕。首筋。
まるでフラッシュのように、その白さが脳裏に焼きついて離れない。
無音の空間が耐えられず、カイジはテレビのリモコンに手を伸ばす。
昼のニュースがこの夏一番の猛暑を伝えているが、どんな情報もただ頭を素通りしていく。
目線をテレビに向けていても、視界の端が常にしげるを捉えてしまっていて、見ないように努めれば努めるほど、そちらを意識してしまうという悪循環に陥っている。
「カイジさん、それ、やめて」
いきなり声をかけられ、冷や水を浴びせかけられたかのように心臓が縮まる。
「ぁ……あぁ、悪い」
無意識にしていたザッピングのことを言われているのだと気付き、点けたばかりのテレビを消す。
ふたたび下りてきた沈黙の息苦しさに、胸のつかえる思いがする。
きっと、この光がいけない。
立ち上がり、しげるの方を見ないようにしながら、カイジは開きっぱなしのカーテンに手をかけた。
不意にその手を軽く捕まれ、心臓が跳ねる。
「さっきから、なんでこっち見ないの」
穏やかな問いだったが、その中には獲物を追い詰めるような残虐さが潜んでいる。
だがカイジの意識は捕まれた部分から伝わるぬるい体温に奪われていて、その言葉は耳に届いていないようだった。
吹き出た汗が、頬の傷に添って流れ落ちる。
「ねぇカイジさん、」
幼い子をあやすような声音で名前を呼ばれた瞬間、タガが外れたかのように、カイジはしげるの両肩を強く掴んだ。
「なに?」
熱に浮かされたようなカイジの顔を真正面から見て、しげるはわざとらしく問う。
カイジは口を開いたが、欠片ほど残ったプライドが邪魔をして言葉を紡げない。
その代わりに、飢えた獣のような瞳でただじっとしげるを見つめる。
しかし、察しろ、などという甘えを、しげるは絶対に許さない。
「言いたいことがあるなら、ちゃんと言ってくれないと」
突き放すような、ひやりとした言葉。
カイジは軽く唇を噛み、つっかえながら言った。
「……したい……、んだよ、おまえと」
言葉が終わるか終わらないかのうちに、しげるがカイジの唇を奪った。
そこではじめて、十三歳らしい性急さが顔を出す。
カーテンを後ろ手で閉め、貪るようなキスを繰り返しながら、しげるはカイジの服を脱がせていく。
「ふっ……ぁ、」
そのまま抱きすくめてベッドまで誘導すると、しげるより大きな体が腕の中で身じろぐ。
そっと肩を押してベッドに横たわらせると、白いシーツの上に黒い髪が波打つように散らばった。
その上に覆い被さり、しげるは余すところなくカイジの口内を味わいつくしていく。
たっぷりと水気を含んだ音が、唇の重なる部分から鳴っている。それなのに、カイジの乾きは増すばかりで、震えながら無意識のうちにしげるの腕をぎゅっと掴んでしまう。
いやらしく濡れた糸を引きながら、しげるはようやく唇を離した。
「……よく言えました」
ごほうび、とでも言うようにしげるはカイジの股間に顔を埋める。
「あ、待……てよっ……!!」
ほとんど形だけのカイジの抵抗を、先端を軽く吸うことでおとなしくさせる。
カイジが行き場を失った手をしげるの髪の中に突っ込むと、そこは動物的な湿り気と熱を帯びていた。
カイジの体を知りつくしているしげるの愛撫は巧みで、カイジの声が甘さを帯びるポイントだけを執拗に攻めてくる。
的確すぎて、痛みすら感じるほどだった。
「うっ……くっ」
さっき観たニュースの内容に意識をやることで射精感をこらえていたカイジだったが、唇で挟んで強く扱かれ呆気なく埒をあけた。
「ん……っ」
しげるは勢いよく放たれるものをすべて口で受け止め、仕上げに鈴口を軽く吸い上げて唇を離した。
両手で受け皿を作り、荒い呼吸を整えるカイジに見せびらかすようにして、口内に含んだものを出していく。
擦れて赤みを帯びた唇から白い粘液が引く淫靡な光景に、カイジの背がぞくりと粟立つ。
自分の容姿がもたらす効果をよく理解した上で、わざとやっているに違いなかった。
唇に残ったものを舌で舐めとり、しげるは蠱惑的に笑う。
「うつ伏せになって、腰あげて」
濡れた声に促され、カイジはもたもたと体を反転させる。
こんなことは自分の本意ではない、とでも言いたげな緩慢さがおかしくて、しげるは思わず笑った。
「う、っ……」
自分の出したものを後ろに塗りたくられ、カイジの背が戦慄く。
早く中に入ってしまいたいという欲望のままかき回され、しかしそんな乱暴な動きにも悦びを感じてしまう自分の体をカイジは呪った。
指が三本入ったところで引き抜かれ、後を追うように声が漏れる。
「次は、どうしてほしい?」
スラックス越しに熱く猛ったものを腿に擦り付けられ、カイジの喉が鳴る。
普段なら死んでも答えない類いの質問だが、暑くて熱くて、カイジはまともな思考ができない。
何度か唾を飲み下し、頼りなく震える声で言った。
「挿れ、て……くれっ……」
わずかに残っていたはずのプライドは、どうやら汗とともに体から溶け出てしまったようだった。
労うようにカイジの背中にキスを落とし、しげるは自身を取り出した。
何度か尻に擦り付けてもどかしげな反応を楽しんだあと、ゆっくりと中に入っていく。
「うっ、あぁぁ……っ」
電流が走ったように、びくびくとカイジの体が跳ねる。
大きな目から溢れた涙が乾いたシーツに落ち、点々とシミを作る。
それは待ち望んでいたものをようやく受け容れられたことで、潤い溢れるほどにカイジの乾きが満たされたのを暗示するかのような光景だった。
根本までカイジの中に納めると、しげるは満ち足りたように長いため息を吐いた。
カイジの背中にぴったりと密着し、声を出さずに笑う。
しかし、触れ合った部分から体の振動が伝わり、カイジは胸を上下させながら肩越しにしげるを睨んだ。
「なに、笑ってやがる……っ」
「あらら。ばれちゃった」
少しも悪びれずに言い、カイジがなにか言う前にしげるは抜き挿しを始める。
「あっ、あぁ、ちょ、待……っ」
文句を言うために開かれたカイジの口から、あられもない声が漏れ出た。
緩急をつけながら、しげるはひたすら腰を打ち付けていく。
募る快感で、カイジの目に涙が滲む。
繋がった部分がとても熱くて、そこからドロドロに溶けていくような錯覚を覚える。
「あっ、く、うぅ……っ」
密着したしげるの体から、思春期特有の甘い汗のにおいが立ち上ってくる。
制服姿の、年端もいかない子どもに犯され、よがっている。
そんな事実にすら被虐的な興奮を覚え、カイジは中のものを強く締め付けてしまう。
「ふふ……、ねえカイジさん、きもちいい?」
弱いところを攻めながら問われ、カイジは無我夢中で頷いていた。
「ずいぶん素直じゃない。……かわいい」
揶揄を含んだ笑い声も、圧倒的快楽の前に霞んでしまう。
(くっそ……っ、暑さで脳がイカれやがったんだっ……、そうとしか思えない……っ)
白い光。思考を奪う暑さ。
あっけなくしげるに陥落させられるのも、屈辱的な質問に頷いてしまうのも、気持ちよくて気持ちよくて仕方がないのも。
諸悪の根元はきっとこの季節だ。
誰かに対して言い訳するようにカイジは考える。
こんな風に自分をダメにしてしまうこの季節と、悪魔のような少年が、心の底から呪わしかった。
激しさを増していく動きに喘ぎが抑えられなくなってきて、カイジはシーツを噛み締めた。
だが、髪を強く引かれて顔を上げさせられ、代わりにしげるが濃厚なキスでカイジの喘ぎを塞き止めた。
「ふっ……んん、っ」
絡まる舌を縺れさせながら唇を離し、しげるはカイジの涙を舐め取る。
「オレ、夏って好きだな。カイジさんが素直になるから」
息を弾ませながらしげるがそんなことを言うので、カイジはますます夏が嫌いになりそうだった。
終
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