時計 19
卓袱台の上の携帯電話の、ディスプレイに映るデジタル時計。
それを、大きな三白眼で伏し目がちに見ては、わずかに表情を曇らせる。
無意識なのだろうか、先ほどから幾度となく繰り返されている恋人のそんな仕草に、アカギは眉間に深く皺を寄せた。
その腕を掴み、強引に体を引き寄せると、驚いたように顔が上がり、黒い双眸がアカギの方を見る。
刺すように眇めた目でその瞳を見返しながら、アカギはいきなり、噛みつくようにカイジに口づけた。
「……ッ、ん……!!」
カイジは目を見開き、ぽかんと呆けた顔で獣の口づけを受けている。
その間抜け面を腹立たしく思いながら、アカギはカイジの体を床に押し倒した。
長く続く口づけに、やがてカイジが苦しげな呻き声を上げる。
それを聞いたアカギがようやく唇を離してやると、げほげほと激しく咳き込みながら、大きな涙目が睨み上げてきた。
「てめ……ッ、いきなり、なにすん……」
「退屈してたんだろ?」
カイジの肩を強く押さえつけて縫い止めながら、アカギは尊大に言い放つ。
「時間なんて、忘れさせてやるよ。時計じゃなくて、オレしか見えないようにしてやる」
淡々とした中にも、抑えきれない苛立ちが見え隠れするその口調に、カイジは大きな目を丸くしたあと、ぎゅっと眉根を寄せた。
「……なんか、勘違いしてねえか? お前」
ぽつりとちいさな呟きに、アカギの眉間の皺がますます深くなる。
それを見ながら、カイジはなにか言いかけるように口を開いたあと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「……やめた。やっぱり、教えてやらねぇ」
歌うように愉快そうな声に、アカギは鋭く舌打ちしたが、すぐにシニカルな笑みに顔を歪める。
「いいぜ。あんたがその気なら、実力行使で、吐かせてやるだけだ」
言いざま、アカギは再度、カイジに深く深くキスをする。
目を閉じてそれを受け入れる恋人の口許に、たいそう愛おしそうな笑みが刻まれていることに、アカギが気づくことはなかった。
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