誘う(※18禁)・6



 互いの息が整ったころ、アカギはわずかに体を起こす。
 ふたりの体の下のシーツは乱れに乱れ、雄臭い液体があちこちにシミを作っていた。

 飛び散った己の精液がアカギの白い腹を汚しているのを見咎めて、カイジはぎこちなく目を背けた。
 その様子に薄く笑い、アカギは腹に付着した白濁を指で掬い、舐める。
「二度目のだから、薄い」
「……バーカ」
 不機嫌そうにそっぽを向くカイジの頬が赤い。
 くつくつと喉を鳴らし、アカギはカイジの乱れた髪を梳きながら問いかける。
「体、大丈夫?」
 カイジは黙ったまま、こくりと頷く。
 よかった、と呟いて、アカギは継ぎ接ぎのある耳を指先で撫でた。
「シャワー、浴びてきたら?」
 このままでは中が気持ち悪いだろうと配慮してアカギがそう促すと、カイジは目だけを動かしてアカギの方を見る。
 その表情がなんとも複雑そうで、なにか言いたげだったので、アカギは黙ったままカイジが口を開くのを待った。

 しばらくののち、カイジはだるい体を押して、ゆっくりと起き上がる。
 むくれた子供みたいな仏頂面で睥睨され、アカギはひとつ、瞬きした。

 そんな風に睨まれるほど、ひどい扱いをした覚えはない。
 今日は珍しくカイジからのお誘いだったのだし、歯止めがきかずにちょっと調子に乗りすぎたところはあるかもしれないけれども、それでも決して無理はさせず、できるだけやさしくしたつもりではある。

 内心首を傾げつつ、『なに、その顔』と問おうとした瞬間、カイジがそっと手を延べてきたので、アカギは軽く目を見開いた。

 目を伏せながらおずおずと、アカギの右肩に向かって伸ばされていく手。
 その手とカイジの表情とを、食い入るようにアカギが見つめていると、右肩の刀傷に触れる直前で、無骨な手はぴたりと止まった。

 どこかじれったそうに舌打ちし、カイジはバリバリと頭を掻く。
「あーもう……やめた。まだるっこしい」
 吐き捨てるようにそう呟くと、カイジはアカギの顔を真正面から見て、やにわに口を開いた。

「もっと、お前と、セックスしたい……」

 耳まで赤くなりながらも、据わった目を逸らすことなく、ひとつひとつの言葉をはっきりと言い切ったあと、カイジは体を傾けてアカギにそっと口づける。

 羞恥心が強くて無駄にプライドが高くて、自分から誘うのが下手くそなはずの恋人が、まさかこんなことするなんて予測もしていなかったアカギは、ずいぶんと面食らったような顔で、硬直していた。
 それはとても珍しい表情だったが、ほんの数秒後、アカギはすぐに口端をつり上げていつもの皮肉そうな笑みに戻り、ぽつりと呟いた。
「油断した」
「……は?」
 唇の触れ合う距離でぶっきらぼうに聞き返され、アカギは囁くように続ける。
「あんたが実は、惚れ惚れするくらい男らしいんだってこと、忘れてたよ」
 苦笑混じりの言葉に目を丸くしたあと、カイジはひどく口ごもるようにしながら、ボソボソと言った。
「……『実は』ってのは、余計だろっ……」
 そのまま、赤い顔がうつむいていこうとするのを顎を掬い上げることで阻止し、アカギは心の底から愉快そうに笑い声を上げながら、カイジにやさしく口づけたのだった。





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