ゆうえんち・3

 今日はよく晴れ、爽やかな風の清々しい日だ。

 乾いた清潔なTシャツとジーンズに着替えたカイジは、行き交う人々をフードコートのテラス席で眺めながら、アカギに奢って貰ったハンバーガーにかぶりつく。
「うまい?」
 対面で頬杖をつくアカギに問われ、カイジは一心不乱に口を動かしながら頷いた。
 後ろで括ったままの長い髪に、あたたかな春の風が絡んで吹き過ぎてゆく。

 アカギは「よかった」と呟いて、アイスコーヒーを啜る。
 その様子を見て、カイジは急いで口の中のものを飲み込み、アカギに言った。
「お前、本当になんも食わねえの?」
「ああ。腹は減ってない」
 そっけなく言われ「ふーん」と返事をしながらも、気後れしてか食べるスピードを緩めるカイジに、アカギはちょっと笑い、身を乗り出す。
「あんたが食べるの、見てるだけでじゅうぶん」
 茶化すようにそう言われ、カイジはなぜだか妙に、恥ずかしくて落ち着かなくなってくる。
 その気持ちを振り払うようにガツガツとハンバーガーを食べ進めるカイジを、アカギは目を細めて眺めていた。



「はー、食った食った……ごっそさん」
 ハンバーガーを二個、それからポテトとナゲットも平らげ、満足げに膨れた腹をさすりながら、カイジはアカギに礼を言った。

 コーラを啜るカイジのストローから、ズズッと音が鳴ったところで、アカギはやにわに立ち上がる。
「それじゃ、行こうか」
 カイジはストローを咥えたままアカギを見上げ、眉を寄せた。
「行くって……どこへ?」
 カイジに問われ、アカギの顔に悪戯っぽい笑みが浮かぶ。

「せっかく、あんたとこんな場所にいるんだ。愉しまなきゃ損、だろ?」

 アカギらしからぬその台詞に目を丸くして、カイジは頓狂な声を上げた。
「愉しまなきゃ、ってお前っ、まさかっ……!」
「ふふ……、その『まさか』だよ」
 すました顔で言うアカギにあんぐりと口を開け、カイジは慌てて顔の前で手を振る。
「いやいや、無理だってっ……! 休憩、あと四十分くらいしかねぇんだぞっ……!」
「それだけあれば、いくつか乗れるんじゃない」
 しれっとそんなことを言ってのけるアカギに、カイジは頭を抱える。
「あのなぁ……お前はこんなこと、知らねえだろうが、ここのアトラクションって人気で、すげぇ並ぶんだよ……」

 いくらショーの時間帯で空いているとはいえ、今日は日曜日だ。
 人気のあるアトラクションなら、軽く一時間は待たされることだろう。

 すると、アカギはジーンズの尻ポケットを探り、テーブルの上になにかを投げた。
 それを見たカイジの目が、大きく見開かれる。

「!! お前、これっ……!」
「入り口でチケット買うとき、『ご一緒にどうですか』って勧められてさ。断るのも面倒だから、黙って買っておいたんだ」

 五枚綴りのファストチケットをつまみ上げ、目を点にしているカイジに、アカギはクスリと笑いかけた。

「あと四十分……ふたつくらいなら、いけるだろ。初デートってのを、してみようか。カイジさん」



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