ゆうえんち・2


「なんでお前が、こんなとこにいんだよっ……!!」

 まず人目にはつかないであろう植え込みの陰にしゃがみ込み、ウサギの頭を外したカイジは、向かい合うアカギに向かって、開口一番、そう怒鳴った。

 後ろで一つにまとめた長い髪を滴る汗でぐっしょりと濡らし、暑さに頬を上気させ、首から下がウサギのままのカイジを、視線で上から下まで撫でるように見て、アカギはニヤリと笑う。
「なかなか似合ってるぜ、カイジさん」
「うるっせぇよ! 質問に答えろこのアホっ……!!」
 はあはあと肩で息をしながら詰め寄ってくるカイジに、アカギはシャツの胸ポケットの中から四つ折りに畳まれた紙片を取り出し、黙って差し出した。

 怪訝な顔でそれを受け取り、広げてみたカイジの口から、
「げっ!」
 と短い叫びが漏れる。

 それは、この着ぐるみバイトの募集チラシで、『履歴書不要、経歴不問』という部分に、カイジ自ら赤でアンダーラインまで引いたものだった。

「こないだあんたのうちに泊まったとき、読んでた雑誌に挟まってたの、偶然見つけたからさ。面白そうだと思って、勝負早く切り上げて来てみたんだけど」
 そこで言葉を切り、アカギは肩を揺らした。
「クク……予想以上だったな。あんなつまらねえ代打ち、とっとと終わらせて正解だった」
 心底愉しげな様子のアカギに、カイジは目をつり上げる。
「お前っ……面白がってんじゃ、」
「ね、今から休憩なんでしょ。カイジさん」
 いきなりアカギに遮られ、カイジはぐっと言葉を飲み込み、ムッとしつつも渋々頷いた。
 仏頂面のカイジに笑みを深め、アカギは歌うような軽やかさで言う。
「だったらさ、昼メシ奢るよ。良いもん見せて貰った礼に」
『おごる』という言葉の響きに、汗に濡れた前髪の隙間から覗くカイジの太い眉が、ピクリと動いた。
「今月、厳しいんでしょ? こんなバイトにまで、手ぇ出しちまうくらいに」
 トドメとばかりに言い募られ、カイジの視線が激しく泳ぐ。
 その仕草でほぼ陥落寸前であることを悟ったアカギは、タバコを取り出し、火をつけて悠々と一服する。
「着替えて来なよ。待っててあげるから」
 煙を吐きながらそう言うと、カイジは迷っているみたいにしばらくの間唸ってから、ウサギの頭を被り直し、勢いよく立ち上がった。
「逃げんなよっ……!」
 怒ったようにそう言い残し、いそいそとスタッフルームへ向かいかけたカイジだったが、
「あっ!」
 と、なにかを思い出したような声を上げ、Uターンしてアカギに駆け寄る。

「お前、タバコは喫煙コーナーで吸えよっ……! こんなとこで吸ってんの、バレたら締め出されんぞっ……!」

 くぐもった声でそう忠告し、一目散に駆けていくウサギの後ろ姿に、アカギは思わず吹き出して、可笑しそうにクスクスと笑った。




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