night・1(※18禁) 「holy」の続き 食物使用注意


 カイジの自室。卓袱台を挟み、アカギとカイジは差し向かっていた。
 二人の間に山と積み上げられているのは、四角いケーキの箱とシャンパンの瓶。それぞれ数を数えれば、ざっと二十弱ずつくらいはある。
「アカギ」
「なに」
「これ、どうすんの……?」
 そろそろと問うカイジに、アカギはさも当然のように答える。
「決まってんだろ。あんたがなんとかするんだよ」
「やっぱり……」
 カイジはがくりと項垂れた。

 アカギはカイジをバイトから上がらせるためだけに、この大量のケーキとシャンパンを買い占めたのであって、甘いものがぜんぜん好きではないらしい当の本人は、ケーキになどまるで興味はないとばかりに煙草をふかしていた。

 あの後ーーアカギを追ってコンビニに入ったあと、カイジは地獄を味わった。
 レジに札束放り出してケーキを大人買いするアカギは、もちろん周りの客達の注目の的だったが、その隣に立っているカイジも『あのサンタ大手柄だな』という称賛の眼差しを浴びることになり、あまりの所在なさに小さくなっていた。
 そのあと大量のケーキの箱を(カイジ一人で)四苦八苦して持ち運びながら、クリスマスの町中を男二人で歩くのは、正直サンタの仮装より一万倍は苦痛だった。

 ……アカギの注文に、文字通り、開いた口が塞がらない店長は見ものだったけれど。

 回想にふけっていたカイジの腹が、ぐう、と鳴った。
 そういえば今日は忙しくて、まともに夕飯を食べることもできていない。
 赤と緑のクリスマスカラーで彩られた箱の、透明な窓から覗くなめらかな生クリームに、カイジは食欲を刺激された。
「じゃあこれ、食っちまうぞ」
 なんだかんだで甘いものが好物であるカイジは、少しウキウキしながらフォークを取りに立ち上がろうとする。
 それを、アカギが静かな声で制した。
「待ちなよ、カイジさん」
 アカギは煙草を灰皿に押し付けると、立ち上がって卓袱台を回り込み、カイジの側に座る。
 そして、ケーキの箱をひとつ開け、アルミの皿ごと引き出して床の上に置いた。
 真っ白な生クリームに、赤い苺がよく映えるショートケーキだ。
 訝しげな顔をするカイジに、アカギはニヤリと笑う。

「フォークなんかなくても、このまま食えるだろ」
「……あ?」

 ますます眉を寄せるカイジに、アカギは言い放つ。

「ここに屈みこんで、犬みたいに食えよ」
「はぁ!? おま、なに言って……」

 あまりに奇矯なことを言われ、カイジの声が裏返る。
 アカギは傲慢に顎を上げ、冷たい目でカイジを見た。
「やれよ、命令だ。誰が、あの寒空の下から救い出してやったと思ってるんだ」
「誰も頼んでねえよ……!」
 カイジは全力でつっこんだが、アカギはサディズム全開のそれはそれは悪い顔をして、カイジに手を伸ばす。
「……!」
 咄嗟に退こうとするカイジの後ろ頭を、アカギはものすごい力で押さえつけ、床に置かれたケーキの前に屈ませた。

「食え」

 頭上から降る冷ややかな声。
 カイジは頭を押さえつけられたまま、鼻の上に皺を寄せてアカギを睨め上げる。その視線を受けるアカギの目がすうっと細められ、黒い瞳の奥にちらつく愉しげな色にカイジはギリリと歯噛みした。
「……っくそ……あとでぜってぇぶん殴る……」
 これ以上反抗的な態度をとっても、アカギをますます楽しませるだけだ。
 そう悟ったカイジは、捨てぜりふを吐いてケーキに顔を近づける。すると、すぐに頭を押さえつけていた力が緩み、労うように撫でられた。



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