night・2(※18禁)


 カイジは初めて見る餌を前にした犬のように、直前で一瞬、ためらったあと、そっと舌先を伸ばして白いクリームを舐め取った。
 途端、舌をとろかすような甘さが口一杯に広がる。それはコンビニのケーキならではの安っぽい甘さだったが、腹ペコだったカイジにとってはまさに甘露だった。
 アカギの顔をちらりと見る。アカギは相変わらずの笑みをたたえたまま、カイジを見下ろしている。
 カイジは目線を戻すと、意を決してケーキにかじりついた。
 そのまま、もりもりと白い山を崩しにかかる。
 できるだけ床を汚さないようにと注意を払うが、そうするとどうしてもケーキに顔を押し付けなくてはいけない。
 クリームのたっぷり乗っかった台座に鼻先を埋め、顔中クリームまみれになりながらカイジはケーキを犬食いした。
 顎がだるくなるほどの甘さのなか、すっぱい苺の味がみずみずしい。
 垂れた長い髪にクリームがべっとりと付き、くくっておけばよかったと後悔が胸を過る。まぁ、アカギがそんなこと許すかどうか怪しいけれど。
 血糖値が急激に上がり、頭がくらっとする。
 甘いものは好きだが、ケーキなどここしばらく口にする機会のなかったカイジは、アカギの存在など忘れ、すっかり目の前の白い塊に夢中になっていた。

 まるで本物の犬のように賤しいカイジの食べ姿に、アカギはますます目を細める。
「カイジさん」
 名前を呼ぶと、カイジはケーキを貪り食いながら目線だけをアカギに向ける。

 その顔。
 口の周りを中心として、頬にも鼻の頭にも、顔中に真っ白いクリームをべったりつけ、リスのように頬を膨らませて口いっぱいのケーキを咀嚼している。
 顔の周りの髪もクリームでべとべとで、融け残りの雪のように黒い髪をまばらに彩っている。

「うまい?」
 アカギが問うと、カイジはすこしばつが悪そうに、もぐもぐ口を動かしたまま頷く。
「……」
 ふたたびケーキにがっつき始めたカイジをしばらく無言で眺めたあと、アカギはふいにカイジの顎をひょいと持ち上げた。
 そして、クリームやスポンジで汚れたカイジの唇に、唇を重ねる。
「!?」
 突然のことに驚くカイジの口内に、ぬめった舌がねじこまれる。
 半分溶けかけたケーキの欠片がアカギの舌に掬われたかと思うと、すぐさま押し戻される。それが不快で、カイジはアカギの口内に深く舌を差し込むことでそれを阻止しようとした。
 二人は陰険に口内のケーキを押し付けあっているのだが、端から見れば互いの舌を食べ合うようなキスに没頭しているように見えるのだった。


 始めたときと同じく唐突に唇を離すと、アカギは不愉快極まりないといった顔でカイジを見る。
「……甘い」
 いやお前、自分でやっといてオレを責めるような目で見られても……

 と、文句を言う暇もなく、カイジはアカギにのしかかられる。
 仰向けに押し倒された拍子に、髪についたクリームが床に散った。
「あってめえ、床が汚れたじゃねえか! なんのためにオレがこんな顔面ケーキまみれにして食ってたと思ってんだっ……!」
 目を剥いて怒るカイジの肩を押さえ、アカギは口端をつりあげる。
「オレを誘うため、でしょ」
 その言葉でカイジは思わず視線を足の方へ向け、アカギの股間が膨らんでいるのに気付いて唖然とした。
「ちげえよっバカ……っひっ……!」
 首筋をべろりと舐め上げられ、カイジの吠え声は途切れた。
 アカギはクスリと笑って体を起こし、カイジの胸の上に乗って頭の横に膝をつく。
 唸り声を上げるカイジを見下ろしながらズボンの前を寛げ、硬くなったものを取り出す。
 自然、口元に性器を押し付けられる格好になり、息をのむカイジをよそに、アカギは半分以上食い尽くされたケーキの残骸を横目で見る。
「あんた、本当に甘いもの好きなんだな」
 そう言ってアルミの皿を引き寄せ、ケーキを手で大きく掬い取ると躊躇いなくそれを自身に塗りたくる。
 そして、白いクリームがたっぷり乗った赤黒い肉棒で、ひきつった顔のカイジの唇をつつく。
「ほら、甘いモノ」
 まるでご褒美でも与えるかのように、アカギはわざとらしいほどゆっくりした口調で言う。
 ふざけろっ! とでも言ってやりたいが、口を開けた瞬間突っ込まれるのが目に見えているので言えない。
 アカギの鋭い目には、匂いたつように明確な欲望の色が宿っていた。
(コイツのツボはさっぱりわかんねえ……)
 どこでスイッチが入ったのかは知らないが、 どうやらアカギはすっかりその気なようで、満足するまで引き下がりそうもない。
 カイジはため息をつき、渋々口を開ける。
 すると待ちわびたかのようにアカギが突っ込んできて、その性急さにカイジは噎せそうになる。
「ぐっ、……ん」
 生理的な涙の浮かぶ目で睨むも、アカギはますます愉しげな顔でさらに腰を押しつけてくる。
「ほら……味わって食べなよ」
 カイジは険しい顔のまま、アカギのモノに舌を這わせはじめた。
 竿肌についたクリームは、その熱でとろりと溶けかけている。
 それを丁寧に舐めとっていくと、裏筋やカリを掠めるたびに口内の塊がぴくんと動く。
 見上げるアカギはさっきと変わらない笑みを浮かべているが、カイジの舐めているモノは敏感に反応していた。
 クリームの甘い香りと雄臭さが混じり、異様な臭気が口いっぱいに充満する。

 お世辞にもうまいとはいえない味。しかし、なぜかこの状況に興奮しかけている自分に気づき、カイジは焦った。
 アカギのモノへの口淫だけでカイジも勃ちかけていて、ジーンズの布に擦れて若干辛い。
 カイジはもぞもぞ身じろぎつつ、腰が疼くのを耐える。

 しばらく続けていると、甘さのなかにしょっぱさが混じってくる。アカギのモノから先走りが滲み出したのだ。
「……うまい?」
 それまで無言だったアカギが、カイジの頭を撫でながら問う。
 カイジが嫌そうに首を横に振ると、アカギは目を細めて笑う。
 さっきまで余裕の表情を見せていたアカギの息が荒くなっているのに気がついて、カイジはクリームを飲み込むふりをしてごくりと生唾を飲み込んだ。




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