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「華を織る」
04

 最後に素早く門を擦り抜けてきた桜木が、水晶の欠片を確認しながら敷地内の一角を指差す。
 それは正面の母屋では無く、その右外れに広がる林の方角。門から母屋へ向かう整地された本道とは別に細道が続いており、林の奥に何らかの建物がある事が伺われた。
「それじゃあ、俺はこっちだな」
 桜木の指先を一瞬見詰めた後、蒼川はその正反対の方角である母屋左側へと身体を向ける。


 ‥‥忍び込む前に、三人は大まかな役割分担を決めてあった。
 蒼川は陽動役である。亜紀が囚われている場所とは反対の方角で、ある程度の騒ぎを起こし屋敷の人間を引き付けた後、離脱を図り退路を確保する。
 宮古は本職と同じく桜木の補佐役だ。桜木の後を追い、場合によっては警備兵の相手を引き受ける。
 そして桜木。彼はただ水晶の欠片の導くまま、亜紀を探し出す。


 大雑把と言えばその通りなのだが、元より三人しかいないのだ、綿密な計画なぞ立てようが無い。
 後は各々の裁量に任せられている。何はともあれ無事に脱出する事が第一だ。
「頼む」
「任せろ」
 不敵に笑うと、蒼川は足早に去って行く。
「俺達も行こう」
「はい」
 此処からは時間との勝負だ。ほんの僅かな時間でも無駄には出来ない。
 蒼川の背中を見送る事無く、二人は林へ続く細道を駆け出す。



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あきゅろす。
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