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「華を織る」
03

「さあ、此方へ。一先ず屋根のある場所へお連れします」
 言いながら女性の背を支えると屋敷内へと促す。躊躇いながらもその手を取り――そこでふと、彼は違和感を感じた。
 女性のすらりとした外観と違わず、確かに長くて繊細な手なのだが、些か大きく節立っている。まるで自分達と同じ、武器を握る者の様な。
「‥‥」
 そして彼は漸く気付く。女性が今までに一言も発していない事を。


 何故‥‥?彼は疑問に思ったが、それ以上考える事は許されなかった。
「、」
 女性の手が音も無く一閃し、何時の間にか握られていた鈍器が彼の首筋を強かに打ち付けていたからだ。
 彼の身体から、あっさりと力が抜ける。
 素早く女性は体勢を入れ替え、逆に彼を抱え上げると背後を振り返った。
 もう一人いた門番も密かに女性――もう既に宮古だとお分かりかと思うが――の方へ意識を向けていたらしい、気配を消して忍び寄った蒼川によって隙だらけの背中を奪われていた。


「行こう」
「はい」
 静かに視線を交わし合うと、往来の左右に他の通行人が居ないか確認し、蒼川と宮古は各々門番を抱えながら門を潜る。
 船乗り直伝の紐結びで、直ぐには解けない様に門番達の手首と足首を手際よく縛った蒼川は、門脇の茂みの中へ見付からない様に押し込んだ。
「何処だ?」
「あっちだ」



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あきゅろす。
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