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「華を織る」
02



「‥‥」
 ――駄目だ駄目だ駄目だ。
 思わず亜紀の黒髪に厳つい指がいやらしく絡みつく様を想像しかけてしまった波瀬は、慌てて首を左右に振る。
 自分がそんな最悪の事態を予想してどうなると言うんだ。全てを任せると決めた筈ではないか、強さと優しさを秘めた茶色い瞳を持つあの方に。自分達と同じ様に、いやもしかしたらそれ以上に亜紀を大切に思ってくれているあの方に‥‥。


「おや、さっきから親方が一人で百面相をしておるわい」
「おやおや、あの無愛想な親方でも器用な事が出来るんじゃのう」
「ほうにのう、織物にしか興味の無い堅物な親方でものう」
「どうせ助平ぇな事でも考えていたんじゃろ」
「っ、」


 ほっほっほっほっほ。
 我に返った波瀬が慌てて振り返った視線の先には、それまで織機に向かっているとばかり思っていた老織師が揃って四人、意地の悪い笑みを浮かべながら店内を覗き込んでいた。無論、客人が居ない事は確認済である。
「昔から無口じゃったが、益々無口になりなさって」
「言いたい事は溜めずに吐き出した方が楽ですぞ?」
「うむ、あまりに寡黙過ぎては女子に敬遠されますぞ」
「女子だけじゃのうて、野郎共にも逃げられますわい」
「‥‥好き放題仰ってくれますね、翁方」
 太刀打ち出来ないとばかりに、波瀬は諦め気味の溜息を吐く。



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