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「華を織る」
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「あら、あの子は?今日は居ないのかしら」
 これでもう何度目になるだろうか、さほど広くは無い店内を見渡しながら訪ねてくる客である初老の御婦人に向かい、波瀬は営業用の笑みを何とか取り繕った。
「申し訳御座いません、亜紀は生憎体調を崩しておりまして」
「あらそうだったの。お加減はどう?お大事に」
「ご丁寧にありがとうございます」
 今度来た時にはあの子の笑顔が見たいわね――そう言いながら店外に出て行く女性を見送ると、波瀬は小さく溜息を吐いた。


 亜紀が行方知れずとなってから、もう何日が過ぎただろう。
 華剣・桜木が秘密裏に西風へと向かったと麻乃から一報を受けてはいたが、その後は何の音沙汰も無く焦燥感だけが積もっていった。
 隣国とは言え東雲と西風は一触即発の間柄、迂闊に連絡を取り合えば救出作戦そのものだけでなく桜木達の命も危うくなる事は重々承知している。承知はしているのだが、何でも良い、情報が欲しかった。


 亜紀は無事なのか。いや、多分無事ではあるのだろう、そもそも誘拐犯は亜紀の能力を欲して攫って行ったのだから。
 とは言え、何不自由無い生活をしているとは到底思えない。良くて軟禁生活、場合によっては拘束され機織を強要されているかもしれない。
 人懐っこい笑顔と礼儀正しい言動に忘れがちだが、亜紀はああ見えて案外気が強い。度胸もある。
 身勝手な要求を手酷く拒否した結果、相手を逆上させていたら。命を取られる事は無いだろうが、無体な仕打ちを受けでもしていたら‥‥



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あきゅろす。
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