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Shot-story
愛しているよ、いつまでも
1期23話のIf story

ちょっと流血表現有り










嘘だ、嘘だ、ユフィが、ユフィが虐殺なんて、そんなの嘘だ。

スザクは、ランスロットを起動させながら耳に入ってきた言葉を否定し続ける。


だって、行政特区を完成させるって言ったんだ。
私を好きになりなさい、私も貴方を好きになります、と。

だから自分を嫌わないで、と。
あんなに優しい人が、誰よりも平和を望んだ純粋で澄んだ人が日本人を虐殺だなんて。
そんなの、そんなの………!!!

我武者羅にKMFを操る。
スタジアムのフィールドには、イレブンの死体が山のように出来ていた。

ユーフェミアが、命じたのだ。
なぜ、どうして、なんの為に。そんな想いがスザクの頭の中をグチャグチャと掻き回すていく。

けれど、今は自壊している場合ではない。イレブンの虐殺は未だ、続いているのだから。
止めなければ。
軍人として、名誉ブリタニア人として、彼女の騎士として。

辺りを動揺しながら見回し、華奢で明るい主を探す。
彼女は確か機関銃を手にしていたはずだ、そんなもの振り回していては危ない。

そんなものを振り回して良い人ではない。

「ユフィ!!何処!!!?ユフィ!!!!」

声の限り叫び続けるが、あちこちから上がる日本人の悲鳴の中に消える。
違う、ユフィはこんな事させない。

ゼロが、ゼロが彼女に何かしたんだ。

レバーを折れるほど握り締めながらモニターで彼女を探し続ける中、視界の端に明るい桃色の髪を見た。

「っ!!!!」

子供の髪を片手に掴み、その首に銃口を押し付けている。

銃は何のためにある?
人を、殺すためだ。

「やめろ、やめろユフィ!!!!
やめるんだ――――――――――!!!!!」

パン、という発砲音がやたらと大きく響く。
ユーフェミアの上質な服を血が汚して、子供は、もう動かなかった。

「ユフィ!!!
ユフィ止めて!!!!!」

ハッチを開いて、地面に飛び降りる。動揺と足場の悪さで着地に失敗するが、それでも痛む足に構わず彼女に向かって走った。

「ユフィやめて!!皆に辞めるように言ってくれ!!!
行政特区日本の為に此処に日本人を呼んだんじゃないのか!?
皆が笑える世界にする為に!ねぇユフィ!!!!!」

キュウシュウの任務完了後の、あの美しい丘で見たあの姿が、其処には立っていた。
ユーフェミアの繊細な肩に手を置いて此方を向かせる。
そして絶句した。

振り返った彼女は、殺人を犯してもなお、笑っていた。

「逃げろスザク―――――――!!!!」

遠くのほうでで、ルルーシュの声がして息を呑む。
その方向を見れば、ゼロがいた。

「……ルルーシュ………?」

パァン、と銃声が響いた。
バチャバチャと水音が大量にする。耳鳴りのような、高い音が頭を襲った。

「、え……ぇ?」

ユーフェミアの持つ銃の先が、自分の腹部に押し当てられている。

そして、その腹部から夥しい量の液が滴り落ちていた。
紅い、水。

「貴方は、日本人でしょう?」
「っ!!!!!????」

何時もの歌うような声で、何時もの明るい声で、何時ものあの、優しい声で。
ユーフェミア・リ・ブリタニアの、あの声で。

「!!ああアアアあああアああああああああアアア―――――――――!!!!!!!!!」

痛み、悲しみ、絶望、虚無、苦しみ、誰に向ける事も出来なくなってしまった怒りと憎しみ。

それら全てを吐き出そうと、叫んだ。

腹から、絶叫に呼応して大量の血が迸る。
それでも、あの優しかった彼女は嗤うだけだった。

「ユーフェミア―――――――!!!!」

遠方からのルルーシュの、怒りに震える低い声。
そして、発砲音。

ユーフェミアが、倒れた。心臓が位置する左胸を深紅に染めて。
ドサリ、と崩れたそのカラダを見下ろして眼をゆっくりと見開いた。


また、失ってしまった


「スザク!!」
「っ………!」

聞き慣れたはずの声がする。
けれど、此処には居ないはずの声なのに。

傷口を押さえながら振り返れば、後ろから現れたのは。

「、シュ、シュナ……イ…ゼ、殿下………。」

護衛も従えず、正装の上着も羽織らず。
血相を変える事なんてあるんだなぁ、あんなに表情を崩して。

そう思いながら、膝から倒れかけた所を大きくて落ち着く腕が抱きとめてくれる。

腹部の痛みを感じているのに、それでもほっとしていた。
いつだってそうだった。この腕は、いつだって自分を抱きとめてくれた。
断罪の時も、幸せな時も、入軍を決めた時も、ゼロから開放された時も、ユーフェミアの騎士に任じられた時も、いつだって。

暖かかった。嬉しかった。聞いてほしかった。話したかった。触れたかった。
もっと、愛したかった。

「スザク、待っていなさい…っ、今救護班を寄越すからっ…!!」

彼の、いつもの甘い声が震えている。手も、内線を押す指も。

「殿、か、ぁ………っ」

ごぼり、と腸から血が逆流して騎士の正装とシュナイゼルの服を汚す。

白に広がる紅をぼんやりと見つめながら想う。
この服は、彼からもらった大切な物だったのに。
大切な、物だったのに。

「喋るなスザク!!出血が酷いだけだ!内臓に問題はない!!」

悲鳴のように叫ぶ彼を見ていれば分かる。こんなに取り乱すなんて。こんなに声を荒げるなんて。

『もう、助からない』

それだけは分かった。

「っ、こんな事なら私が交渉に出れば良かったんだ…!!
彼女に行かせたのは間違いだった!私が傍にいればこんな事にはならなかった!!
…っ、スザク…………っ!!!!」

何かを吐き出すように口を開いたシュナイゼルは、腕に力を込める。
苦しいくらいに抱き締められて、この温もりの中で死んで逝けるのなら幸せだと思った。

幸せすぎて、今まで傷つけてきた人達に申し訳ないくらいだった。

「、でっ…か、最後、まで…申し、訳……」
「最後ではない!!まだ、まだ私はお前をナイトオブワンにしていないだろう!!??」

嗚呼、覚えてて下さったんだと微笑む。




遠い昔、まるで戯言の様にナイトオブワンになると口にしていた自分を抱き上げて、彼は言った。

『ナイトオブワンというのはね、皇帝陛下、つまり父上の騎士になる事だよ?』
『殿下の騎士のままじゃなれないんですか?』
『……いや、なれるよ。私が皇帝陛下になればいいんだからね』

あの時の会話は、冗談だと思っていた。

だから、ユーフェミアの騎士になると言ったときも笑顔で認めてくれたのだと。

「まだ私を独りにしないでくれ。
お前の存在は、もう大きくなり過ぎたのだ………っ」

初めて聞いた、こんな、か細くて頼りない声。
スザクを掻き抱く腕だって、こんなに震えている。

何でも出来る貴方でも、こんな時を迎える日が来るんですね、なんて他人事のように感じながら。
それでいて申し訳なかった。自分の為に。

「独りじゃ、ないです……。」

最後の力を振り絞って、震える腕で騎士服の胸ポケットから取り出し、それをシュナイゼルに手渡す。

チャリ、と軽い金属音を立てたソレは、時が止まった懐中時計。
目を見開く彼に微笑みながら、シュナイゼルの首元に頬を寄せる。

「いつも、いつだって傍に居ます。
ずっと、ずっと傍に、いますからね…………。」

限界だ。出血や痛み、そして様々な真実がスザクの体力を奪っていく。

ゼロの正体。
ユーフェミアの虐殺。
沢山のイレブンの死。
護れなかった事への後悔。

まるで小さな子供に対するように、シュナイゼルに言い聞かせる。息を呑み、茶色の癖髪に手を差し入れて額を互いに合わせて。

大きな暖かい、優しい手。
綺麗で鋭い、優しい瞳。
甘くて残酷な、優しい声。

全部全部、大好きだった。

「シュナイゼル殿下」

リヴァル、ミレイさん、ニーナ、シャーリー、カレン、咲代子さん、父さん、ナナリー、セシルさん、ロイドさん、ユフィ、…ルルーシュ。

「ありが、とう……っ」







カクン、と腕の中の子供の力が抜けた。
後に残ったのは、軽い、躯だけ。

「………、それは、私の台詞だ…っ」

細い体をより一層抱き締める。そのまま血で染まった地面に腰を下ろして、抱き込んだ。

「そして、言うならもっと早く…っ、もっともっと生きてから言うべきだったのに………っ!!」

一生を終えるにはあまりに何も知らなさ過ぎた。あまりにも幼過ぎた。あまりにも、美しく在り過ぎた。

「愛しているよ、何時までもね…」







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