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【亥】ホワイトノイズ



お医者さん曰く、医学的に言えば私の病名は、何とかかんとかケンボーショーらしい。要するに、記憶喪失。

まだいくつか検査をしないといけないと言って、私はあと数日以上の入院を余儀なくされていた。



…………暇だ。


なんかめちゃくちゃ暇だ。ものすごく暇だ。

やるべきこと(行方不明になっていた間の勉強を取り戻すとか)は沢山あるんだけども、まあやるべき事とやりたい事が合致するなんて奇跡が起こるわけもなく。



「しっあわっせは〜歩いて来ない〜だぁから歩いてゆくんだね〜」


のんびり歌いながら、病院の中庭を散策する。良いお天気だ。こんな日は、芝生の上に寝転がってお昼寝でもしたら気持ちがいいだろうな。

だけど、お昼寝をする気にはなれない。


目が覚めてから、なんだか胸の奥がざわざわして仕方がなかった。旅行に行く前、忘れ物してないかなとか戸締りしたかなとか、そういうこと考えちゃうのに似てる。

ざわざわして、落ち着かない。

だから、そのざわざわを忘れたくて、私はひたすらどうでも良いことに集中する。中庭の花壇の完成度を勝手に評価してみたり、木にとまってる小鳥の仕草を眺めてみたり。




中庭をたっぷり5周くらいしたら、さすがに疲れてきた。部屋に戻ろう、とエレベーターを止める前に、ふと売店が目に入る。ポケットの中には小銭があるし、お菓子でも買って帰ろうかな。


お菓子コーナーとパンコーナーをぐるっと回って、まあ無難にポッキーあたりをカゴに入れる。
さて会計。

……と、レジの前に平積みされている雑誌が目に入った。


(あ、……ジャンプ)

そういえば、こっちの世界に帰ってきてから、全然読んでないや。




(…………「こっちの世界」?)

胸のざわざわが、ひときわ大きくなる。



顔を上げると、レジのおばちゃんが「お会計するの?しないの?」みたいな表情でこっちを見ていた。

「あ、すみません。これお願いします…………あとこれも!」


ジャンプを1冊掴んで、ポッキーの箱の隣に並べた。

何だろう。漫画雑誌を買うだけなのに、なんだかひどく胸が掻き乱された。





(こっそりエロ本買う男子中学生じゃあるまいになー)
(なに、あんたエロ本買ったの?)
(ゲッお母さんいつの間に!買ってません買ってません!)

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あきゅろす。
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