度胸と根性が報われるかどうかは結局主人公力にかかってる
人間、生きてりゃでっかい壁にぶつかることなんて何度もある。
……とは言うけども。
今の私がまさにそういう状況で、それにしても壁がデカすぎるだろと神様を罵りたくて仕方ない。
まさか真正面から大蛇丸さんと戦うことになるなんて、ちょっと前の自分に言っても信じてもらえないだろう。
「刀の扱い方、サスケ君に教わったの?それとも、見よう見まねかしらね。スジは悪くないけど、基本がなっていないわよ」
「ご指導、どーも」
やるべきことはシンプルだ。大蛇丸さんの背後にあるドアから、外に逃げる。それだけ。
出来ればついでに、大蛇丸さんの手にある名前ちゃん召喚システム……もとい、あの妙ちきりんな金属球も回収しておきたいんだけど…
「余計なことを考えている余裕はない。そうよね、名前?」
「ええ、全くその通りデス、ねっ!」
刀を思い切り振りかぶって、真正面から斬りかかる。こんな攻撃が通用しないことなんて分かりきってる。
案の定、刀身を掴まれて刀を押し下げられる。その勢いで前につんのめったところに膝を叩き込まれそうになるけど、大人しく食らう名前ちゃんではない。
さらりと身をかわし、もう一度刀を構える。そして斬りかかる対象は大蛇丸さん――ではなく。
「おらぁっ!」
「うわっ!!」
不意をつかれたカブトくんは、若干慌てた様子で刃をかわす。
狭い部屋の中で、対峙する私と大蛇丸さんに挟まれる形で立つカブトくん。呆れたように肩をすくめて、侮蔑の眼差しを私に向ける。
「狙う相手を間違えてるんじゃないかい?」
「間違えてませんよー?この場にいながら、のうのうと無関係ヅラ出来ると思ったら大間違いなんですよ!意地でも巻き込ませてもらいますからね!」
印を組み、大きく息を吸う。部屋の中だから小ぢんまりと、なんて気づかいはしない。
肺に溜めた空気を、練り上げたチャクラと共に思い切り吐き出した。炎の龍がまずはカブトくんを、そしてその向こうの大蛇丸さんを襲う。
避けなければもちろんこんがり黒焦げなんだから、それで出口までの道が拓ける……はずだったんだけど。
現実はそんなに甘くない。
「あっ!?」
炎の向こうで、大蛇丸さんの姿が消えた。分身だ。
(本体は、どこに――)
「こっちよ」
すぐ耳元で、囁く声が聞こえた。死角から襲い来る蛇の一撃をかわして、カウンターをぶち込もうとする…けど、振り向いた時には既に大蛇丸さんの姿はない。
「ふふ、反応が遅いわね」
本体は、いつのまにか部屋のドアを塞ぐように立っている。
……いや、あれが本体かどうかもあやしいもんだ。
「さて、次はどうするの?」
「そうデスねぇ……折角ですから、未披露の新技でも見せてあげましょう」
刀を左手に持ち替えて、右手をグーに握る。
まだ一度も実戦で試してない。一か八かだけど、やってみるしかない。
練り上げたチャクラを拳に貯めて…
「そして狙いは……お前じゃーーー!!」
カブトくんに向かって振り下ろす。要するに第二部のサクラちゃんがやってた、チャクラによる怪力化だ。
医療忍術の練習でコツコツ鍛えたチャクラコントロールの、その副産物のようなもの。
「ふん、なるほどね」
カブトくんは、今度は余裕の表情でそれを避ける。
どうやら練習途中の怪力パンチは、サクラちゃんのほどとは言わないけど、おおむね成功らしい。避けたカブトくんの背後の壁に、大きなヒビを入れる。
「発想は良いと思うけど、モーションが大振り過ぎるね。それじゃ避けて下さいと言っているようなものだ」
「避けて欲しかったんデスよ」
「なに…?」
避けられる事は織り込み済みだ。むしろ本命はそっち。
「へへ……大蛇丸さん、私に死なれるのは嫌なんですよね?でも、即死しちゃったら医療忍術でもカバーできないでしょ」
「名前、きみ、何を言って……」
「私が即死しないように、しっかり守って下さい、ね!」
チャクラを拳に貯めて、私はそのまま真後ろにある壁を叩いた。
居住区であるこのあたりの造りは、修行場ほどの耐久性を持たない。そこに火遁やら拳やらを叩き込まれて、もはや数分もまともに建っていられない土壁に、これはとどめの一撃だ。
重吾くんとの戦いで、私は思い知った。建物の崩落というのは、場を撹乱するのに最適なのだ。
……命の危険が伴うというデメリットに目を瞑れば。
「ああ、そういうこと」
大蛇丸さんが笑った。私も、笑い返した。恐怖を紛らわせるには、笑うのが一番だ。
ぐらり。視界が揺れるほどの地響き。
「大蛇丸様!」
カブトくんが動いた。それとほぼ同時に、私も動いた。
刀を構えて、落ちてくる瓦礫の隙を縫いながら――ドアの前に立ちはだかる大蛇丸さんへ、突っ込んでいく。
「そこをどいて、下さいっ!」
カブトくんのチャクラのメスが、大蛇丸さんに降りかかる瓦礫を細かく砕いて無力化する。
大蛇丸さんの袖から現れた蛇が、私に降りかかる瓦礫を弾く。
私は身を守ることなんて一切考えず、ただあのドアを突破することだけを考えて走る。
そして――……
ようやく轟音がおさまった時、景色は一変していた。
ここに来てからすっかり「自分の」になってしまった机もベッドも、瓦礫の下に埋まっている。
私の正面には、黄金に光る大蛇丸さんの瞳。私が持った刀は……大蛇丸さんの腹部に、深々と突き刺さっていた。
「あ…」
「ほら、どうしたの名前?このまま、刀を真横に振り切ってご覧なさい。私の内臓はぶちまけられて、あなたの目的は達成される。簡単な話でしょ?」
大蛇丸さんの手が伸びて、私の髪をすく。私の手は動かない。
……動かせない。
生身の人間を刺した感触は想像していたより生々しく、私の体を縛っていた。
「ひるんでいる場合じゃないでしょう?駄目な子ね」
「ば、馬鹿にして…っ」
「あなた、足りないのよ。力も覚悟も、何もかもね。欲しいものがあるのなら、殺してでも奪い取らないと」
大蛇丸さんが、一歩こちらに近付く。刀が深く刺さっていく。
「もっと遊んであげたかったけど、あまりだらだらするのも良くないわね。……さあ名前」
ただごとでない気配を感じて、大蛇丸さんから距離を取ろうとする。
けど、刀は深々と大蛇丸さんのお腹に突き刺さってるし、刀を持つ私の手も、大蛇丸さんにしっかりと握られている。
――後ずさることすら許されない。
「痛いわよ、奪われるのは」
大蛇丸さんの、妖しい囁き。
次の瞬間、横腹がじわりと熱くなった。
「あ……、はっ…」
熱のありかに視線を落とす。
何が起こってるのか理解した途端に、耐え難い激痛が私を襲った。
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頑張れ夢主。主人公力を見せつけろ!
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