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君がどれ程の価値であろうとも




ひときわ大きな爆発音が響き、どこだかがガラガラと崩れる音がした。

「派手にやってるな」

隣の男が、笑い混じりに言う。

二手に分かれ、向こうを陽動とすることによって何とか侵入することができた。
大蛇丸のアジトは場所を突き止めることは元より、場所が判明してからも内部に入り込むのが困難だった。木ノ葉崩しにより大蛇丸が弱った今、手間と手数を掛けてようやくここまで来られたのだ。


「向こうが先に鉢合わせたか……陽動の役目は充分に果たしてくれたということだな」

男は満足げに、手に持った書類をひらひらと見せびらかす。

「思った通りだ。大蛇丸ほどの奴が、なんの理由もなくアレに執着するとは思えなかった。お前も見るか?」

返事をせずに、また部屋の捜索に戻る。「相変わらず、面白くない男だ」という文句を背中で受けて、イタチは紙の書類がきちんと並べられている棚を物色する。そのほとんどが、禁術に関する研究書だ。


「指輪は良いのか?」

「無くても何とかなる。それよりこっちだ」

男が机の上に放り投げた書類は、時空間忍術に関するものばかりだった。
ひとつの術として完成させるには至っていないものの、それでもかなり完成された理論、術式が記載されている。時空間忍術を扱わないイタチが見ても「まだ」未完成の術にしか見えないが、時空間忍術をある程度解っている者が見れば、或いは「既に」なのかも知れないと思える程に。

その分厚い書類の束の上に、つい最近付け足したであろう真新しい紙が数枚、クリップでとめられていた。


「これは、名前の……?」

「チャクラに良く似た性質を示す未知のエネルギー、だそうだ。時空間忍術と極めて相性が良く、通常ならば不可能なレベルの時空間忍術すら可能にする、と」

「…………」

心当たりはあった。

「こことは違う別の世界から来た」と言う名前。もしもあれが、時空間忍術の作用なのだとしたら?
名前は知らずに発動された時空間忍術に巻き込まれ、時間や空間どころか世界を跨いで「こちら側」へ来てしまったのだとしたら?

大蛇丸の研究結果が真実なのだとしたら、充分にあり得る話だ。


「大蛇丸が目をつけるのも納得だな……時空間忍術か。妙なチャクラを纏っているとは思っていたが、あの小娘にこんな付加価値があったとは驚きだ」

「なぜこれを俺に?」

「さあな。同郷のよしみだ、とでも言えば信じるか?」


この男の軽口に付き合っていると疲れる。

恐らく何か企んではいるのだろうが、それを踏まえても今は、情報を独占されなかったことに感謝するべきだった。

何を企んでいるにせよ、この男が名前を手駒のひとつに加えるつもりなのは明白だし、それならば何かしらの対策を講じる必要がある。

これ以上、この男に力を与える訳にはいかなかった。



「暁のメンバーを駆り出してまで、欲しかった情報はこれか?」

「ここまで有用とは思っていなかったがな。何かしらの情報と、ついでに指輪を奪い返せれば良い方だと思ってはいたが……」

時空間忍術か、と男が呟く。

「お前も、4代目火影の実力はよく知っているだろう。大蛇丸が時空間忍術を手にするなど、脅威以外の何物でもない。そうなると、だ」


どうすべきかは自明だろう?と、男はイタチに問いかけた。


「……名前」

「そう、名前を確保する。あれは暁に……俺に必要な駒だ。大蛇丸なんぞにくれてやるつもりはない」


イタチは男から視線を外し、耳を澄ませた。先ほどの大きな爆発音の後は、特に交戦音らしきものは聞こえてこなかったが、今はまたどこかで、チャクラがぶつかり合う気配がしていた。


「……名前が気になるのか?」

わずかに嘲るような調子が含まれているのは、恐らくわざとだろう。イタチは慎重に言葉を選ぶ。

「アレが大人しく利用されるままとは思えない。手綱をつけ損なうと厄介だ」

イタチがそう言うと、男は「確かにな」と笑う。

「だが、それを見極めるのはお前じゃない。そうだろう?」

「…………好きにすると良い」


この男が何を企んでいるにせよ、名前の身柄が大蛇丸の所にあるよりは、目の届くこちら側にある方が最善の状況であることは確かなのだ。
こんな所でぐずぐずしている暇はない。


「さあ、名前を迎えに行くか」

男に続いて部屋を出る前に、イタチは歩みを止め振り返った。先ほど目を付けていた棚に再度手を伸ばす。
時空間忍術の分類棚ではなく、人体実験の結果を記した書類が並べられている棚。

あの男は恐らく、名前が生きているということは、人体実験の研究材料としては手を出されていないと解釈したのだろう。だからこの棚には、特に有用な情報は無いと判断した。


(偶然は、俺に味方している)

イタチは、棚から薄い紙の束を引っ張り出した。軽く目を通すと、常に持ち歩いている巻物にそれを封じる。

どこからかまた、大きな爆音が響いてくる。
余り遅れても怪しまれるだろうと、イタチは小走りで仮面の男のあとを追った。




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あきゅろす。
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