武器や防具は装備しないと荷物になるだけ
轟音は、しばらくしてから掻き消えた。
背後の壁が打ち砕かれたのか、砂煙がもうもうと舞っている。私の眉間を生温いものが伝った。おでこあたりにかすったらしい。
「ノーモーションからアレを避けるとは!やるじゃねえか!お前もオレのコピー野郎か!?」
「違いますよ!っていうかあっぶないじゃねーですか!」
完全に状態2に変化してしまっている重吾くんに、悪態をつく。
「だいたいどーしてくれんです!こちとら回避をウリにしてるのに、初手で流血とか信用ガタ落ちも良いとこデスよ!奇襲反対!」
「煩い女だ……黙らせる、殺す!殺してやるぜえ!」
重吾くんが、再び拳を振り上げた。今度は確実に避けられる。っていうか避けないとヤバい。
幸い、パワーはあれど取り分けトリッキーな動きは無い。動きを把握さえしていれば楽に避けられるはずだ。
「死ねェ!」
しかし、振り下ろされた拳が私に到達する前に、私はひらりと身をかわす。続く第2撃、第3撃も、なんなく避けていく。
さっきはいきなり攻撃されたから完全に油断してたけど、こうなってしまえば楽なものだ。
「ちょこまかと逃げやがって!その刀はお飾りかァ!?」
「はっはっは!残念ながらお飾りなんですよね!」
なんちゅータイミングだ。もうちょっと刀に慣れてからだったら良い腕試しにもなっただろうに。(いや、それにしても強敵すぎる気はするけども)
今の名前ちゃんは、ただ刀を持っているだけ。武器や防具は持っているだけじゃ意味がないぞって、武器屋のおっさんとかがよくいうアレだ。
「重いの持ってるぶん避けづらいんですけど、これからこの刀で戦うことになるなら、この重さとかさばりに慣れなきゃ駄目なんですよねえ」
考えながら、重吾くんのチャクラ波動砲的なのを避ける。あんまり舐めプをしてると痛い目を見ることは分かってるんだけど、どうにもクセになってしまってるみたいだ。
避け続けて、少し重吾くんの息が上がってきたころ。それを見計らってか、隅っこの方によけていた水月くんが、攻撃の合間を縫って近寄ってくる。
「名前!きみ、そんなに動けたんだね」
「ああ水月くん。動けるだけなんですけどね。さっきはご心配どうも」
「心配?何のことやら……わぶっ」
すっとぼけた水月くんを、重吾くんの拳が襲う。
飛段くん然り、やられてもやられない奴らってのはどうにも防衛が手薄になるらしい。
あーびっくりした。なんて言いながら液状化させた頭を元に戻す水月くんに、重吾くんの苛々は更につのったようだった。
「こざかしい!お前ら2人とも殺してやる!」
「もー!ちょっとは落ち着いて下さいってば!水月くん!なんか重吾くんを落ち着かせる方法ないんですか!」
「ないよ。けっこー重吾と手合わせさせられてるけど、こいつが落ち着いたところなんて一度も……」
「いや落ち着くはずなんですよ。っていうか普段は落ち着いてるはずなんです。なんかないかなあ、蟲笛とか……」
「名前って時々変なこと言うよね」
「時々という認識で嬉しいです。しかし、方法が無いとするとどうしましょ、うっ!?」
突然、視界が揺れた。足元が揺れたというよりも、視界がぐらついた。
なんだろう、と思う間もなく視覚的にそのわけを把握する。
壁が、崩れ落ちた?いや、重吾くんが石の壁を剥ぎ取ったんだ。
バリバリ、ゴリゴリと嫌な音を立てながら、瓦礫というにはサイズの大き過ぎる石の板を、重吾くんは頭上高く掲げる。隣を見ると、既に水月くんは液体になってどこかへ退避した後のようで。
知ってた、あの子はこういう子だ。あとでぶん殴ってやる。
「グハハハハハハァ!死ねェ!」
「おわぁ!?」
投げる、というより叩きつける勢いで襲い来る石の塊を避ける。しかし。
自分が避けられる避けられないだけを考えていて、もっと肝心なことを忘れていた。
ここが、室内だということ。部屋の耐久性。
入り口付近の壁は、重吾くんの初撃で大破していた。そして一方の壁は重吾くんによって投擲武器にされ、もう一方の壁にはたった今、大きな亀裂が入った。
そこまでなっていながら、この可能性を考慮しなかった私が悪い。
爆ぜるような音をたてて、亀裂はたちまち天井まで走り抜ける。
(や、やばーーっ!)
咄嗟の回避行動が通用するようなレベルではなかった。
頭を庇いながら硬く目を瞑れば、上下の感覚が麻痺するほどの轟音だけが、脳内を占める。
そして、意識はブツリと途切れた。
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!