トラ・トラトラトラ
妙な部屋を見付けた。
いや、正直言ってここは妙な部屋ばかりだ。その辺にポンとなんかのホルマリン浸けが置いてあったりするし、むしろ妙じゃないものの方が珍しい。
この部屋はむしろ、「まともなものばかりある」という点で妙だと言えた。
「武器ばっかりデスね……クナイに、千本に、斧に、刀に……あっ鎖鎌!かっこいい!」
狭いその部屋には、あらゆる武器が保管されていた。
いや、保管というよりも放置といった方が正しいかも知れない。奥の方にある木箱なんて、かなり厚い埃をかぶっている。
「大蛇丸さんの武器庫……にしては、ラインナップがまとも過ぎますね。なんだろう」
こういうのは、人に聞くに限る。
山盛りの書類を抱えて廊下を歩いていたカブトくんを捕まえて聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「ああ、あの部屋。サソリが集めてた武器を保管してあるそうだよ。サソリと大蛇丸様は昔ツーマンセルを組んでいて、その時に……」
カブトくんがまだ喋っている途中だったのに、私はさっさと元の部屋に戻ってきてしまった。
大体の事情は理解した。つまり、サソリさんが傀儡に仕込んでいる多種多様な武器。それの保管庫なんだろう。
ということは、サソリさんもここに来たことがあるんだろうか?それとも、ツーマンセル解消時にでも大蛇丸さんが勝手に持ち出したんだろうか?
なんにせよ、要するに。
「ここにある武器は全部、サソリさんのものってことデスね。なるほど、なるほど……」
そういうわけで私は、今日の予定に「武器庫漁り」を追加したのである。
「えー……クナイがいっぱい、これはパクっても大丈夫ですかね。千本は使いこなせる気がしないから良いとして………鎖鎌もかっこいいけど、使うの難しそうだなあ」
何を隠そう、この名前ちゃん。何らかの専用武器が欲しいのだ。
避ける隠れる逃げるが得意技なわけだけど、以前トビ君(っていうかマダラさん)とやり合ったとき、それだけでは無理があると痛いほど思い知った。実際めちゃくちゃ痛かった。
ならばどうすれば良いか?
簡単な話。こちらも攻撃手段を持てば良い。
別に、トビ君とか大蛇丸さん相手に戦って勝とうなんて微塵も思っちゃいない。
ただ、相手の攻撃を受け、少しでも反撃し、隙を作ること。それくらいはやらなければいけない。
「あとやっぱ、専用武器ってカッコイイですからね!なんか良いやつ〜……うーん、鎌ってカッコ良いけど、飛段君とキャラ被るよなあ」
ゴソゴソと漁っていると、ふと目に止まるものがあった。
基本的にくすんだ色合いの武器の中で、異彩を放つもの。
「わあ、綺麗……」
どうやらサソリさんが集めていたのは、実用的な武器だけではないらしい。
いや或いは、一国を潰したとか言ってたし、その時に得た戦利品を、使い勝手が悪いとかで放ったらかしにしていたのかも知れない。
とにかくそれは武器というより美術品を思わせる美しさで、そこにあった。
やや派手な装飾が施された、一振りの刀。
「そういやこっちの世界って、刀らしい刀を使うキャラっていませんよね」
やたらめったらデカい刀とか、斬るのではなく削る系刀を使う鮫さんならいるけど。
こういう慎ましやかな、まさに刀!ってスタイルのキャラはそういえば少ない気がする。
「ふむ。刀。刀かあ。あ、そーいやサスケ君の武器は刀か。なるほどサスケ君とお揃い……なるほど、なるほど、なるほど……」
それを手に取ってみると、ずしりと重い。刀ってこんなに重かったんだ。まあでも、チャクラという心強い不思議パワーもあることだし、振りまわせないことはない。
ちょっと見た目が派手過ぎるのを除けば、良い武器だ。
「…………ウン、これにしましょう」
ちょっと鞘から抜いてみる。
こんなとこに放置されていたにも関わらず、その刃は曇ることなく、奇妙なほど美しい。
「ほほー、良いですね。でも折角専用武器にするなら、名前とかも欲しいですよね」
例えばサスケ君の草薙の剣のように。鮫さんの鮫肌のように。名前があるってめちゃくちゃカッコイイ。こう、武器口寄せとかするときに、武器の名前なんか叫んじゃったりする感じの。物凄くカッコイイ。
「……うーん、そうですねえ…………見た目きんきらりんで派手だから、金ピカ丸………………いや流石にこのセンスは無いな……」
せめてもっと、口に出したらカッコいい名前が良い。金ピカ丸とか、またふざけてると思われるのが関の山だ。
「ま、名前の事は取り敢えず良いか。さて、じゃあ次は……これをどう扱うか」
答えはひとつしかない。
運良く、いや運が良いか悪いかはともかくとして、刀が扱える人が身近にいる。
彼に教われば、なかなか素敵な刀捌きになることは間違いない。
教えてくれれば、だけど。
「ま、駄目で元々、ものは試し。頼んでみなきゃー分からないですね」
幾分かのクナイとその刀とを手に、武器庫を後にする。探す人物はただひとり。勿論、サスケ君だ。
刀の扱い方、振るい方、あわよくば刀にチャクラを流す方法なんてのもやってみたい。
絶対、確実に、十中八九嫌な顔をされるが、それはまあいつものことだし今更気にすることじゃあない。
「サスケく〜ん!おーい!」
いつもサスケ君が修行している修練場を覗く。
しかし目が合ったのは、全く別の人物だった。
「…………誰だ?お前」
灰褐色の肌。異形の瞳。
「名前!?どうしてここに!」
叫んだ声は、聞き覚えのあるものだった。
多分、水月くん。でも、こっちのセリフだ。どうして水月くんがここに?
そして、目の前にいるのは……
「誰でも良いかァ!殺す!殺してやる!」
水月くんが「逃げろ」と叫ぶのと、私がその拳の風圧を感じたのは、ほぼ同時だった。
(彼、奇襲ニ成功セリ)
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