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温泉の効能に内臓系のが書いてあるとマジかよって思う






それは聞いた通りに、美しい白色だった。


「わああ、凄い!」

感嘆する名前と、得意げな香燐。

「な?言っただろ」

「凄い凄い!じゃあ入りましょう!」

「今からか!?まあ、良いけど…」


話は数十分前に遡る。

「実はこのアジトには温泉がある」とは、香燐談。
元から温泉があった所にアジトを作ったのか、アジトがあった所に温泉が出たのかは定かではないが、とにかく天然温泉らしい。

そういう情報を聞くと、まず行きたいと言い出すのが名前だ。
ちゃっかりタオルと着替えも持参して、香燐に案内を頼んだというわけだ。



「……でも、良いんですかね?」

服を脱ぎながらそう呟いた名前に、香燐は首をかしげる。

「なんだよ。こういう時は遠慮すんのか?真っ先に喜んで飛び込んで行きそうなのに」

「そういうイメージなんですね……いえそういうわけではなくてホラ例えばですよ。大蛇丸さんとお風呂でバッタリとかシャレにならなくね」

「ああそれは、シャレにならない……」


しかしその点は問題ないらしく、香燐が以前、大蛇丸に入って良いか尋ね、「好きにしなさい」との答えを貰ったと聞いて、名前は安心してまた脱衣を続ける。



かくして数分後、名前と香燐は2人仲良く温泉に浸かっていた。
香燐は珍しく眼鏡を外している。


「あ〜〜〜〜〜〜〜」

「オッサンくさい声出すな」

「だって気持ち良いんですもん……温泉サイコー…香燐ちゃんグッジョブ……」


若干熱め、乳白色のお湯に肩まで浸かったまま香燐に親指を立てて見せると、香燐は「お前に褒められても嬉しくない」といった風にツイと口を尖らせる。

「お前って、変なヤツ」

「よく言われます」

「なあ、お前って」


ほんとに何者なわけ?

香燐の問いに、名前は首をかしげる。
何者と言われれば、ただの名前であると答えるしかない。異世界云々は大蛇丸サイドには伏せてあるし、それ以外に特筆すべき何かがあるかと言われれば、特にない。


「うーん、別に何者って言うほどでもないんデスけど」

「……自分で気付いてないだけか?」

「ん?なんかあります?」

「…………いや、何でもない。あんま突っ込んでも、ウチが大蛇丸様に怒られそうだしな」

「えー!……まあ良いか、折角の温泉なんだし、なんか楽しいこと考えましょう。恋バナとかします?」

「はァ!?誰がするか!」

やや慌てた香燐を見て、名前は下世話にニヤついている。


「香燐ちゃん好きな人いるんでしょ〜〜?」

「おっ、お前こそどうなんだよ!」

「私が今それどころじゃない状況なのは分かっているでしょう!」

「ここに来る前とかだよ!好きなヤツとかいたのかよ!」


どうやら香燐は仕返しのつもりらしく、ジリジリと名前に詰め寄る。

「ここに来る前デスカ……えーっと」

「どうなんだ?ん?ん?」

「いやいや待って、まあ確かに一緒にいて楽しいとかムカつくくらい顔整ってやがんなコイツらとか色々ありましたけど」

「なるほどな〜〜〜。で、どうなんだ?好きなヤツはいたのか?」

「んん……」


よくよく考えてみると、その辺りの感情など清々しくスルーして、ただひたすら「楽しい、面白い、愉快、萌える」をメインにやって来た感は否めない。
好きか嫌いかと言われたら全員好きだが(トビは別)、こういった話の流れでいう「好きなヤツ」がいるかと言われると、考え込んでしまう。


「…………ほっとけない人はいましたけどねえ」

「あ、誤魔化しやがったな。っていうかお前をもってしてほっとけないって、どんだけ頼りないヤツなんだよ」

「いえ頼りないわけではなくて、むしろ世界最高水準の頼り甲斐なんですが、なんていうか……自分のことはほったらかしというか、周りのことばっかりというか」

「ふうん。ほっとけない、ねえ」

「…………まあ、他にも色々あるんですけどね。やめましょうかこの話」

「お前が始めたんだろ」

「まあそう言わず!にっ!」


言いながら名前は、香燐に思い切りお湯をかけた。油断していたのか、香燐は頭からびしょ濡れになる。
どうせ風呂に浸かっているのだから、頭から濡れようが構わない筈ではある。
しかし当然、問題はそこではない。


「名前ーーーっ!!」

「あははは!」

「てめーっ!ちょっと人が油断するとすぐ付け入りやがって!同じ目に合わせてやる!」


先ほどの女子トークはどこへやら、一変してお湯の掛け合いを始めるふたり。
それはそれで女子っぽいと言えなくはないが、一方的に若干の殺意が含まれている。

とはいえ、名前はそんなことは気にならないらしい。楽しそうに笑いながら、いつもの回避力を見せることなく真正面からお湯をかぶる。


「あっはっは!温泉効果で頭皮まですべっすべになりそうですね!」

「お前ってほんと………馬鹿!」

「褒め言葉ですゥー」



香燐にお湯を掛け返しながら、名前は思う。

楽しければそれで良い。その考えは未だに変わっていないし、恐らくこれからも変わることはない。しかし、決してそれだけではなくなっているのも確かだ。


ほっとけない。何とかしたい。

その意思は、きっと嘘ではない。




(……会いたいなあ)


お湯の掛け合いに飽きた風を装って、名前は鼻先までをお湯に浸ける。
飽きんのはやいなあ、なんて呆れた声を出す香燐には、今の名前の表情は見えていない。



(会って話をすれば、私がどうしたいのか、どうすれば良いのか、すぐに答えが出そうなのに)


会いたいその人の名を呟けば、乳白色の泡がポコポコと浮き立ち、こわれて消えた。





(あ、そういえばちょっと思ったんですけど、水月君って風呂上がりの脱水気味な時にコーヒー牛乳とか飲んだら、髪の毛が若干茶色くなったりするんですかね?)
(考え込んでたと思ったらそれかよ)

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