私達は立つ! 悪夢、握夢。 また、明日。なんて他愛ない挨拶をして、彼は旧型テレビのゲートを通っていった。見送った幸は夜の闇が一気に、また寂しさを呼び起こす。だが、幸は小さく首を振り邪念のような闇を追い出して、つかないテレビを見つめた。しばらく眺めていると選ばれし子供たちのパートナーデジモンが幸の名前を呼んだ。 「幸。」 「ん、どうしたの?」 「みんなが待ってるよ」 「今、行くよ。」 そして振り返る。風にのってきた重たい匂いに眉をしかめて、空を見上げた。嫌な気分になる黒い雲が、じわじわ広がっていく。 「…やなかんじ。」 「何か言ったか?幸」 「雨、降りそうだね」 「雨を凌げる場所を探さなきゃダメだね」 あたしが寝泊まりしてるとこなら、雨風凌げるよ。そこまで離れてないから、みんなでどうぞ。と切り出せば、デジモン達は喜んでいる。そんな光景を見ていると、なんだかおかしく感じられた。 「さ案内するよ、遅れずについてきてね」 薄々感じた。嫌な気配から逃げるように幸はいつもより遅いスピードで、走り出した。 呼出武器-メイクアップ・ウエポン-空走る疾風! 後ろを走るデジモン達の追い風を一つ放って、急ぐ足をなお早く走るように仕向けて、耳を澄ます。ポツリと聞こえた音は、ひどく激しい雨音になる。そして、紛れて聞こえる雑音に眉根を潜ませた。 「雨、降り出した音がするから急いで!」 滑り込むように、住処に入れば後追いのデジモン達が走り込んできた。雨が強かに地を打つのが聞こえた。雪崩込むデジモンの波が終わったのを見て、数を数え上げる。 …はて。ひぃふぅみぃよ。一人足りない。 「ピヨモンはん、いはりまへんで!」 「なんだって!」 「みんな、ここにいて」 「でも。」 「いいから!」 誰が止めようと、幸は気にせずまっすぐ夜の闇に走り出した。傍目も振らず、まっすぐだ。 「呼出武器-メイクアップ・ウエポン-空走る疾風!」 自分に追い風かけて、茶色の耳が、風の切る。誰かが居なくなるのは耐えられない。叫びあげそうな幸が薄暗い森の中に潜り込んだ。 もしかしなくても奴がいる。背中に嫌な汗が流れた。蘇る悪夢に立ち向かうしかないのかと、唇を噛んだ。 悪夢、握夢。 (令嬢、どなたをお探しで?)(貴様っ!)(いや、選ばれし子供と言うべきか?時代を追ってきたというのか!) [*前へ][次へ#] |