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W
ダンス
「1、2、3、1、2、3」
「ここで離れて、ターン」
「ターン……きゃあ!?」
踏み出す足を間違えてバランスを崩す。
「おっと」
これは間違いなくこける。そう思ったのに、ぶつかったのは固い布地と、少し骨っぽい腕だった。
抱き留められたのだとわかって顔が赤くなる。
「す、すみません!」
「大丈夫だよ。……休憩しようか。そこで一応食事出してる」
そこ、と指されたのはホールの端にあるカウンターだ。
「いえ、もう少し」
「じゃああと1回ね。俺のどかわいたんだ」
「はい。お願いします!」
「……なにかの試合みたいになってきたな」

なんとか1曲踊り終えてカウンターに座る。さすがにこけることはなかったけれど、何度も足をふんでしまって申し訳なく思っていると、「踏まれた程度で痛む軍靴はないから気にしないで」と言われた。でもやはり、落ち着かない。気を紛らわそうと渡されたメニューを見たけれど、今度は見方がわからない。
「どこを見たらいいんでしょう?」
ブラッディーマリー、ソルティードッグ、レッドアイ。聞いたことがない。料理にしては妙な名前だ。
「ええと…ああここ。しまった、カクテルしかないのか」
ようやく料理と確信できるページを示されてほっとする。
「え?お水でいいですよ」
「ハルが良くても俺が良くない。せっかく可愛い子連れてきたんだから可愛いもの飲んでるところが見たい」
口を尖らせる姿が年上には見えなくて、自分よりよほど可愛いと思ってしまう。
「……ヴィリ君可愛い」
「え?」
きょとんと首を傾げる姿にもやっぱり思う。
「なんでもないです。でも私、お酒飲めませんよ。未成年ですから」
「そうなんだよね。うーん……あ、これあるのか。すみません、これとこれ。ハルは?何か食べたいもの」
「ええと、私は……」

いくつか注文した品を待っていると尋ねられた。
「プロムの相手さ、俺にしてって言ったけど良かった?他に誰か約束してなかったの?」
「今朝まで忘れてましたから。ダンスに誘われたことはあったんですけど、結びつけて考えられなくて全部断ってました」
「ふうん。ま、それがいいかもね。恋人ならともかく、変なステータスにならなくてすむし」
「なんのことですか?」
意味がわからない。
「ハルは首席だよね?それで、特にライバルらしいライバルもいない」
「ええ、まあ」
「君のこと本気で好きな奴もいたと思うんだけど、ぱっとしない男子学生にしてみれば、首席の女子を手に入れたら箔がつくんだよ。言い方悪いけどね。女子の首席はそのあたりが難しい」
「そうなんですか」
「相手選べば大丈夫。恋人とか、じゃなかったらもう卒業してる俺とかあの人とかね」
その言い方がふと気になる。
「ヴィリ君のそれ」
「何?」
「私のこと呼んでください」
「……?ハル?それともハーティス?フロイライン・ロッシュとか?」
「いえ、いつも通りでお願いします。じゃあ、兄は?」
「……。ヤーグ・ロッシュ大尉」
「それです」
「……勤務中はファーストネーム呼ぶわけにいかないじゃないか。上官だから」
「今勤務時間外ですよね、軍服だけど」
「そうだけど」
「よく考えたら直接名前を呼んでるところ、見たことありません。昔はきっと呼んでましたよね?その時はなんて?」
「君ほんと鋭いよね……」
「ふふ。教えてください」
にこりと笑いかけると、うろうろと視線をさまよわせてから頭を抱えてしまった。頬が赤かった気がするのだけど。
「ヴィリ君?」
声をかけるとゆるゆると顔があがり、上目遣いで睨まれる。
「誰にも言わないでくれよ」
「はい」
「俺今23歳なんだよ」
「そうですね」
「離れ離れになったの20年前でね」
「そう聞きました」
「今更人前で『やーぐにーちゃ!』とか呼べるわけないだろ……!」
今度こそ頭を抱えて、カウンターに突っ伏してしまう。しかし隠れていない耳は、昼でも薄暗い照明の下ですら真っ赤に見える。
「やっぱり、可愛い」
こっそり笑う。しかし聞こえてしまったようで、目だけ覗かせてにらまれた。でもまだ顔が赤い。
「お待たせいたしましたお客さま、シンデレラはどちらに?」
声をかけられて驚くと、ウェイターが飲み物を持っていた。
「こっちに」
従兄が示したのは私の前。
「ヴィリ君、私飲めません」
「アルコール入ってないから大丈夫。12時で魔法がとけるシンデレラ用」
口元をおさえてまだ赤い頬をごまかしている。
「可愛いですね」
微笑んでしまう。
カクテルも、従兄も。
「……君シンデレラよりかなり悪女になれるよ」
やっぱり頬は赤かった。


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あきゅろす。
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