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虹蛇
10p
 残された日下部は空いているベッドのカーテンを閉めてベッドに横になりイヤフォンを耳に差し込んでスマートフォンで音楽を聴いた。
 と、隣のベッドから「うんっ……」と呻く声が聞こえた。
 日下部はスマートフォンを操作して音量を落とす。

 しばらくすると、隣から小さな寝息が漏れた。

 日下部はその寝息を聞いてふっと笑って目を閉じた。

 始業を告げるチャイムが響く。

 今日が静かに始まる。



 文化祭当日。
 二年六組は賑わっていた。
「いやあ、大成功ね。女装カフェ」
 委員長は満足そうに客の入った教室を見回して言った。
 小宮は委員長の隣でピンク色のセーラー服の裾をひらひらさせながら、「だな、俺のセーラー服姿に客は皆いちころだい!」とふざけている。
「小宮、それね。アンタのセーラー服姿にはがっかりだわ。似合わなさすぎる。アンタ、顔は良いのに女装が似合わないなんて、使えないわね」
 委員長に言われて、小宮はしなをつくる。「そんな、酷いわ委員長。私、傷付いちゃったんだわ。しくしく」
「げげ、止めてよ。はぁ、アンタに比べて天谷君、彼は完璧だわ」
 そう言って委員会はテーブルで接客する天谷を、目を細めて見る。
  
 化粧をして紺色のセーラー服を身に纏い、黒い長い髪のウィッグを付けた天谷は見惚れるほど綺麗だった。
 ここにいるほとんどの客が、天谷目当ての客である事は、客の天谷を見る目で分かった。

「小宮、アンタのお手柄よ。天谷君のプロデュース、頑張ってくれて有難う。小宮に言われた通りに私達も天谷君の衣装作り、頑張った甲斐があったわ。彼ったら、背が高いから衣装泣かせで……。まさか天谷君があんな美少女に化けるなんてね」



 天谷の衣装からメイクまで、全てを小宮がうるさく注文を付けていた。
「こいつは目玉になるぜ」
 と言う小宮の台詞に、初めの方こそ半信半疑のクラスメイト達だったが、完成した天谷の姿を見て、誰もが息を呑んだ。
「何これ、凄い。神ってる! めちゃくちゃ可愛い!」
「ほ、本当にあの天谷なのか? 今まで根暗なモブにしか見えて無かった」
「ヤバすぎる。女子にしか見えない」
「スーパーモデルみたいにスタイルいいし、女として勝てる気がしないわ」
 大絶賛のクラスメイトの声を天谷はただぼんやりとした顔で聴いていた。



「午前でこの混みよう、もしかしたら女装カフェは模擬店で一位になるかも知れないわね。おほほほっ! 笑いが止まらないわ!」
 大満足の様子の委員長に小宮は半分呆れて苦笑いをした。
 小宮は客の注文を取っている天谷の方に目を向ける。
 天谷はロボットの様にぎこちない動きで接客をしていた。
「あの、えっと、アイスコーヒーと、えーっと、パ、パンケーキと……」
 天谷の注文を確認する声は途切れ途切れで聞こえ辛い様で、客が逆に天谷に注文の確認をしている。
 そんな天谷の姿に委員長が目を光らせる。
「あちゃー、あの人見知りが無けりゃ、天谷君は最高なんだけどな。一反仕切り直しますか。小宮!」
 委員長は鋭い声で小宮を呼ぶ。
「何じゃらほい」
「天谷君と二人で看板持ちに行って来て! 看板は小宮が持つのよ!」
 と委員長は小宮にびしりと人差し指を突き付けて指示を出す。
 小宮はその指示に「へいへい」と従った。

「おーい、天谷、看板持ち行くぞー」
 小宮は天谷に手を振って呼びかける。
 小宮のその呼びかけに、天谷はホッとした様な顔をして「今行く」と返事をした。


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