虹蛇
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ショートボブの彼女は四人の前に躍り出ると、ビックリしている四人に構わずに、大きく、少し震えた声で言った。
「あ、あ、あの、小宮くんが見せてくれたスマホの日下部くんの彼女の写真、写ってるの、この人ですよね?」
彼女は、小宮に向かって、そう言うと天谷を指差した。
彼女は小宮の知り合いらしい。
彼女は天谷を指差して鼻息を荒くしている。
彼女の質問に、小宮は彼女から目をそらし、「えーっと」と、お茶を濁している。
指をさされた天谷はもちろん、日下部、嵐は、目を丸くして彼女と小宮を交互に見る。
彼女は話を続ける。
「私、同じ学校に彼女さんを見かけて、それもびっくりしたんですけど、それより、あの……写真ではわからなかったんですけど、この人、男ですよね?」
彼女は四人に確かめるように、言葉の最後の、ね、を強調して、四人の顔を見回した。
四人は頷く。
天谷は男だ。
「この人と付き合ってるって、日下部くんってゲイだったってこと? それとも彼女……彼が女装が趣味って、そいう話? そういうの、偏見はないですけど、私、なんだかいっぱいいっぱいになっちゃって、どうしたらいいのか、私、私……」
彼女は両手を顔に当てて泣き出してしまった。
どうしたらいいのか、と彼女は言うが、それは実際は日下部と天谷の方だった。
二人は付き合っているが、そのことは二人だけの秘密だった。
それが何故だか知られている。
しかも、見ず知らずの女子に二人の関係を追求されているのだ。
日下部と天谷にとって、どうしたらいいのか分からない状況とはこのことだ。
「えーと、あの、あんた、なんなの? 女装ってどういうこと?」
天谷が真っ白な頭の中からなんとか言葉を見つけて話した。
言われた彼女は涙を啜った。
「うっ、私、榎本海っていいます。私っ、日下部くんと仲がいい小宮くんに、私が日下部くんを好きだから、日下部くんと仲良くなりたいって勇気を出して相談して。そうしたら、日下部くんには彼女がいるから諦めろって、小宮くんに、彼女……彼の写真を見せられて。凄く可愛い子だったからこれは諦めようと思ったら、学校でその子を見かけて。ぱっと見は、わからなかったけど、でも、背が凄く高いなって……うっ、うっ……それで、よく見たら、男で……ううっ」
榎本は、そう天谷を指差して答え、泣きじゃくる。
「小宮、どういうことなの」と小宮をきつく睨む嵐。
天谷と日下部も鋭く小宮を睨む。
小宮は済まなさそうな顔をして、スマートフォンを取り出して、画面を操作し、三人に見せた。
三人は顔を合わせて画面を見る。
スマートフォンには、セーラー服姿の黒髪の少女の写真がある。
「うわっ、なにこの子、めちゃ綺麗な子じゃん!」
嵐が思わず声を上げた。
天谷と日下部は写真を見て、うっ、と声を上げて唸った。
スマートフォンの画面に映る少女は息を飲むほどの美少女だ。
長い髪を両手で少し掻き上げたまま、恥ずかしそうに俯いている少女は、カメラからは視線が外れている。
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