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虹蛇
3p
「その写真の子、彼でしょ!」
 泣いていた榎本が顔を上げて、天谷を激しく指を差して、そう訴える。
 言われて、嵐がまじまじと写真を見る。
「ええっ? これが天谷? ちょっと待ってよ、嘘でしょ? え、ええっ? ……確かに……にてる? けどさ、この完成度、男として有り得ないでしょ。良く似た他人とかじゃないの?」
 嵐は写真の美少女を穴が空くほど見る。
「い、あ、あ、天谷、アンタ、実は双子の兄妹とかいないわけ?」
「いない」
 嵐に言われて天谷は即答した。
「あ? ……ああっ、あ、うそっ……マジで? この写真、天谷? えっ、ななな、なんなの、この写真? つか、天谷、なんで女装? ええええっ?」
 嵐は写真の美少女と目の前の天谷雨季を何度も見比べたが、写真の美少女は嵐が見ればみるほど天谷雨喬であった。
「この写真、まだ取ってあったのかよ、小宮」そう言う天谷は静かに怒っていた。
 日下部が、「何でこんな写真、彼女に見せたんだよ」と小宮に、呆れて言う。
「ごめんなさい」
 小宮はその場に土下座をした。



 写真は、小宮、日下部、天谷の高校時代の文化祭の出し物の女装カフェでの天谷の女装姿を小宮が盗撮したものだった。
 小宮はその写真を今までずっと取っていたのだった。

「ごめん。榎本が俺に急に、日下部を好きだから付き合えるように協力して欲しいとか言うから、少しからかうつもりで天谷の写真を見せて日下部の彼女だって言ったんだけど……まさか榎本が真に受けるなんて思わなくて。ごめん、悪気は無かったんだ、本当にごめん!」
 土下座をしたまま小宮は謝罪の言葉を口にした。
「最低」
 嵐が冷たい顔で吐き捨てるように言う。
 日下部と天谷は、もう言葉が出ずに、ただ、土下座している小宮を見ていることしかできないでいた。
 榎本も、途方にくれたように小宮を見ていた。

 場の空気がとても重い。

 嵐が「そもそも、日下部と天谷が付き合ってるとか、ありえないし。榎本って言ったっけ? あー、なんて言ってあげたたらいいのかな……」そう言って、榎本を見て髪を激しく掻きむしる。
 嵐の台詞に、日下部と天谷は一瞬お互いの目を合わせ、直ぐに逸らした。
 二人は苦いものでも食べたような顔をしていた。

 小宮の嘘によって生まれた、この場に漂う、実に重たく気まずい空気は、日下部、天谷、小宮、嵐の四人で先刻まで楽しく過ごしていた時間がまるで全て嘘かのように四人に感じさせた。
 この場には、苛立ちと、戸惑いと、不安と、後悔と、罪悪感という、ありとあらゆるマイナスの感情が存在しているようだった。
 誰がどう見ても、何をしてもうまくいくように思えないこの状況の中、しかし、こんな時、自分はどうすべきかということを、小宮と榎本海だけは心得ていた。
 小宮は謝罪をするということを、そして、榎本は……


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