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< 偽りの恋人 >
「――――――雪ちん、妬いた?」
―――――――ニヤニヤした笑顔ですっと封筒が嬲るようにその頬をなぞるから、思わず園部雪夜はその手を叩いていた。
「―――――妬いてない」
パンッッッッ!!!!
――――――思いの他大きな音が放課後の駐車場に響いて。
そして、叩かれたその手からは封筒がはらりと落ちた。
「―――――――ッ」
―――――漂う沈黙にやり過ぎたと分かっているから雪夜は叩いてしまったその手の持ち主から視線を逸らす。
怖いくらいの優しさとぞっとするほどの冷酷さを使い分ける恋人が、今、どちらの顔をしているのか。
――――――知るのが怖かった。
「―――――妬いてないって?ふーん」
ごめんという簡単な一言すら言えずに雪夜はその思わせぶりな声にぎゅっと唇を噛んだ。
コツン。
コツン。
ゆっくりと近づく影から逃れるように後ろに下がれば駐車されたバイクが行く手を阻む。
「――――だったらさー」
――――――下を向いたままの視界で見慣れた靴が立ち止まれば、すっと目の前から手が伸びた。
ドンッッ!!
乱暴に押された体がバイクに乗りかかり、体制を立て直そうとする雪夜の顎は強い力で引き上げられる。
―――――そして、見上げたその先に雪夜はぞっとする光を見るのだ。
「――――――妬けよ、"雪夜"」
―――――暗い駐車場にぽつんと浮かぶ電灯の光が美しい神城怜の無表情な顔を照らし出していた。
――――――園部雪夜は知っている。
「――――――手・・・・」
ふざけた口調を使わない時の恋人の言葉は絶対だと。
そして、自分はいつだって嘘つきでどうしようもない・・・・。
―――――目の前で渡された恋人宛てのラブレターに妬かないはずなんてなかった。
だから、おずおずと顎を掴むその手に雪夜はそっと指を伸ばすのだ。
「―――わるッ―――っんっっ!!」
突然覆われる陰に驚いて。
もさぼられる唇に驚いて。
「―――――――帰るよ、ユッキー」
――――――やがて頭上から降ってきたその言葉にほっと心を撫でおろした園部雪夜は知らない。
バイクに跨るその背にいつも以上にしっかりと縋るぬくもりを感じて狡賢い魔法使いがニヤリと笑ったことを。
「―――――たまんないねぇ、お姫様の泣き顔」
――――――タチの悪い魔法使いは哀しいお姫様の心を他でもない自分だけに向ける魔法を知っているのだ。
やがて一台のバイクが消え去り、コンクリートの暗闇に人影のなくなった頃には、誰かからの思いの詰まった白い封筒がぼんやりと残されていた。
End.
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