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< 狼の焦燥 狐の本音6 >









――――――パンッッ!!!






乾いた音とともに臀部を手加減なく叩くといつもは愉悦と余裕をチラつかせるその瞳が途端に鋭い刃を剥く。



――――だから、屈しないその光を見るたびに衝動のまま容赦なく叩きこむ。







「くっ!、っ、はぁ・・っ・・」






―――――仰け反ったその首に感じるのは。





暗い独占と。



歪んだ支配。



そして。





――――甘美な征服。








「―――――っ!!」





曲線を描く首に噛みついて、痛々しいその痕をねっとりと舐め上げれば、睨むその瞳に映るは自分だけだという満足感で満たされる。


―――――突き入れるたびに薫る男の香水の匂いが殊更熱を煽って、確かにこの手の中に今自分の欲っする男がいるのだと燻ぶり続けたその飢えを治めることが出来た。








普段見せる嫌味な笑みは誘うように艶やかだが、その笑みを見るたび無理矢理引き裂きたくなるのは、隠された獣の光がその瞳に映る瞬間こそ、"笑い狐"が"神崎卓"に戻るその時だと本能的に察知しているからなのか。





―――――女性らしさの欠片もなく"男"として上物な部類に入るだろう目の男をなぜ欲するのか。





ただの支配欲か。



ただの肉欲か。






―――――その答えを真田晃平は欲してはいない。




優しい愛や甘い恋なんてものは、所詮、晃平を満足させたことなどできないのだ。



――――――ただその男の瞳に映る瞬間だけが晃平の冷たく凍った何かを熱く燃えたぎらせる。



その事実だけが晃平にとって価値があるもので、だからこそ、この歪んだ愛だけが真田晃平という一人の男を唯一満足させるそれだった。










「―――――――はっ、タチの悪いドラッグが」



――――――自嘲するような呟きを残して、晃平は気だるげに情事で乱れた前髪を掻きあげた。





その髪の間から光るのは。





―――――ぞっとするほどの狂気に濡れた双眸だった。








―――――ふざけた戯言でニヤリと笑う男を見ればちっぽけな理性は簡単にブチ切れる。





無理矢理引き摺り倒して。





力任せにぶち込んで。





噛みついて。




汚して。





―――――もうこれは自分のものだと咆哮をあげることしか頭になくなるまでそう時間はかからないのだ。



だが、引き摺り倒しても引き摺り倒しても対等なその位置にあっさりと舞い戻るその男は所詮"所有物"で納まってくれるほど安易な器ではなかった。


だから、無限のループの繰り返し、まるでドラッグに嵌った中毒者のように飢えながらその背を追うことになるのだ。





結局。






欲を誘うのだ。







―――――コレは。





この魔性は。








『男が笑えば獲物が落ちる』




――――――ご多分に漏れず、定評のあるその笑みに晃平自身、毒されていることを残念ながら理解していた。











「―――――――ちっ」




―――――思わず舌打ちした晃平は乱暴に腰の動きを再開すると、無理矢理上向かせたその口に強引に舌を忍ばせた。


嫌がるようなその舌も強引に熱を叩き込めば、興を殺がれて簡単に捕まえることができる。





「んっ!っ、んっ、・・・」




ギシッ、ギシッ、キシッ。







―――――――苦しげに喘ぐその表情に唇を解放してただ凶暴で欲望のまま形の良い肩に噛みついた。








「――――――っ!!」






痛々しいその歯型を舐めるたびに睨みつけられるその瞳に最高の興奮を覚えれば晃平の表情に浮かぶのはただただ冷酷なその笑みだった。



―――――日に焼けたその首を伝う汗を何度もねっとり舐め上げては耳を噛む。


あやすようなそのしぐさを繰り返し、腰の動きを穏やかにすれば、呆れたような掠れた溜息が晃平の耳に届いていた。








「―――――コーヘー君・・・過激な愛は身を滅ぼすよ?」



―――――うんざりしていると言わんばかりの物騒な物言いも晃平にとっては睦言に変わりない。






嬲って。




噛みついて。




揺さぶって。




食らうようなセックスをする獣たちに。








――――ただ甘いだけのハッピーエンドなど必要ないのだ。







だから。






残酷に。





獰猛に。





貪欲に。








「――――――はっ、上等だ。だが、忘れるなよ、色男」









―――――真田晃平はただ冷たく笑う。






獲物を顎を力任せに掴み、冷たいその目を細めて。








―――――絶対の言葉を紡ぎ出すのだ。










「―――――――その時はオマエも道連れだってことをな。この俺がそう易々とオマエを逃がすと思うなよ」






―――――不器用でどうしょもない獣たちは牙を剥き出してこの世にただ歪んだ愛を叫ぶことしか愛し方を知らない。



甘くも優しくもないその愛は険呑と欲に濡れた瞳で一心に語られる。






しかし、持たされる熱情と執着は。







――――殊更深く。





尚、厚い。







他の誰も。







――――寄せ付けることを許さぬほどに。












「―――――はっ、そりゃまた大きな勘違いってやつだね、コーヘー君」




――――力任せに胸を押された晃平はゆっくりと腕の中で笑う男を眺めた。





挑発と愉悦を含ませて。





確かな獣の光を宿して笑うその男は。





甘く。




優しく。








「――――――生憎、覚悟すんのはそ・ち・ら・さん」






――――鋭い刃を歪んだ愛に捧げる。



目を細めた晃平は一種甘美なその響きに己の狂気を認めて舌舐めずりした。






――――そして。






心のままに。








―――――牙を剥く。










「――――――その足、へし折ってでも引き摺って行く」







深く。





歪んだ。






―――――その熱情で。










「―――――地獄の底までな」








ギシッ。



ギシッ。






―――――ただ静かな月だけが限られた時間の中歪んだ愛に蠢く獣たちを照らし、軋む音だけが獣の巣に響き渡っていた。







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