Main < 狼の焦燥 狐の本音5 > ―――――タチの悪い狐が余裕の面して笑うそのうちはなんてことはないとわかっちゃいても一瞬でもそのにやけた面が見れなくなると考えたその時に湧き上がるこの深い焦燥と背中を這い上がる恐怖を。 ――――――あっさりオマエはその笑み一つで踏み倒していくってわけだ。 ―――――好きだ。 反吐が出るほど甘すぎるその言葉は口にするのも胸糞悪い。 ―――――愛してる。 意外とちんけなその言葉は天下のひねくれ者から自由を奪うほどには価値がない。 ――――――何より。 この胸にぞろりとせり上がるこの苦々しい思いを何一つ正確に表してもいないそいつらが間違ってもこの口から出れば最後、オマエは尻尾すら見せずあっさり姿を消えちまうんじゃないかって。 ―――――訳もなくそんな気にさせられる。 何も恐れたことのないこの俺が唯一この胸に抱く脅威は。 ――――自由なその背中を見失うことだと。 否応なく突きつけるこのどうしようもない苦々しさは結局、愛や恋なんてそんなお優しい言葉じゃ語れないってことだ。 ―――さしずめ憎悪に似た狂気。 盲執を越えた歪んだ愛だ。 ――――ふざけた言葉で音頭を取って手の内で人を踊らせたかと思えば、嫌な笑み貼り付けてしたり顔で笑ってやがる。 だが、その最高の笑みに釣られてこの手を伸ばせば、余韻だけを残してオマエはあっさり消えていくってわけだ。 そのくせ、この手が届くギリギリのそのラインに留まって笑う目で語るのさ。 ―――――さぁ、来いよってな。 だから、ふらふらするその体に重い楔を打ち込んで、どこにも行かせないようにその首に独占と言う名の鎖で繋ぎたくなる。 その好奇心旺盛な瞳が俺以外を向かない様にくだらないこの世界を片っ端しら壊しちまえば、この腕の中以外にオマエが行く場所なんてどこにもなくなるじゃねぇかって馬鹿の気が起こるのさ。 ――――――当然、欲望のままそれを実現すれば最後、二度とその極上の笑みは見れなくなるだろうにな。 だから、この焦燥にも似た飢餓を抱えて、結局俺はただ自由なその背を追いかけるしかないってわけだ。 ―――――自由の羽を折ることができないなら逃げるたびに追いかけて、力づくだろうが何だろうか。 ―――――――無理矢理引き摺り倒す。 それ以外に方法なんてありはしないだろ? ――――はっ。 とんだ根性比べを始めたもんだ俺たちはよ。 ―――――だが、悪くはない。 なぁ、そうだろ、色男? まぁ、先に値をあげるのは。 ―――――オレか、オマエか。 ―――――精々楽しみにしとけよ。 いくらオマエという名の焦燥と飢餓に苦しもうとこの腕にその体が堕ちてくるとわかっているそのうちはこのはち切れそうなこの俺の理性もまだ辛うじて繋ぎとめておけるからな。 本気を出せばいつだってこの手が届かないその場所に逃げることができるくせに、伸ばせば届くそのギリギリのラインに留まるってのは。 ――――――――なぁ、天下のひねくれ者からの下手くそな『愛情表現』ってやつなんだろ? 『残酷で最低な愛し方』しかできない。 ―――――不器用なオマエからの最大の『愛』だ。 だから、その背がこの視界に映るそのうちはこの反吐が出るほどくだらない世界ってやつにも、まだ俺が生きるだけの意味があるってことなんだろうぜ。 はっ。 ―――――とんだ奴に惚れたもんさ、俺は。 だが、この俺に。 ――――――――逃がす気はさらさらない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |