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< 狼の焦燥 狐の本音4 >
ただひたすら互いを見つめる。
――――その視線だけで。
大切な何かを伝えられるなら。
今オマエはその視線で。
―――――一体何を語ってるのか。
それでも。
その視線だけで十分だと。
この薄汚れちまった心が語るから。
―――――結局、不器用な俺たちに。
――――――"語る言葉"は必要ない。
「――――――ふっ」
―――――静寂を笑い飛ばすように小さく鼻を鳴らした神崎卓は全身から力を抜くと艶やかに獣を笑った。
素直じゃないその手が目の前の体に伸びることはなくとも、ただ向けられる無言の視線のように自分の目もまた何かを訴えているのだろうと知っていた。
「―――――目がめっきり"マジ"ですよ、コーヘー君」
―――――ふざけたその言葉だけがひねくれ者が贈れる最大級の言の葉で。
目の前の男にその思いさえ伝わればそれで事足りる。
―――――否、伝わらなくていい。
伸ばせないその手が拳を握って背に隠れようとも。
そんな滑稽な事実を知るのは。
―――――神崎卓ただ一人でいい。
「―――――はっ、今更だ」
―――――悪戯に笑う狐に何を思うのか、一瞬目を細めた怜悧で美しい獣は卓の体にただ大きな影を作る。
影は性急に唇を奪い――――。
「―――んっ・・ぁ・・・・っ」
―――――その舌が強烈な執着を露わにした。
絡んで。
舐めて。
吸いついて。
―――――その言葉より雄弁な愛に飢えた狼が追うのは自分だけなのだと暗く笑った狐を誰も知らない。
ギシッ。
「くっ、ぁっ、――――っ!」
――――力の抜けたその足を大きく抱え込んで男は当然とばかりに性急に卓の体に入り込む。
無理矢理押し広げられるその快楽に息を詰めて瞳を閉じれば、臀部に再び痛みが走った。
パンッッッ!!!!
「―――――ケツあげろよ」
「―――――っ!」
――――――肌を叩くその乾いた音は静かに"狐"のプライドを呼び覚ます。
低く。
冷たい。
――――その絶対の声だけが。
「――――――見えねぇんだよ。オマエの可愛いココが俺を咥えて涙ながらに喜ぶのがな」
――――狐を本気にさせるから。
バシッッッ!!!
―――――反射的に出た右手が男の手に簡単に治まろうが、ニヤリと嫌な笑みを貼り付けた狐の表情は変わらない。
ただ険呑と邪悪なその瞳がじっとりと怒りに濡れて、女の醸すことが出来ない男の色香がふわりと宙に舞った。
殊更。
―――――艶やかに。
「―――――Fuck you,Baby」
――――狐は笑う。
しかし、ゆっくりと囁かれたその暴言がさながら甘い睦言だというように男は小さく鼻を鳴らすだけで無慈悲にぐっと腰を押し付ける。
齎される快楽に。
「――――っ!!」
――――顔が歪む。
――――その睨む卓の目尻をぞろりと楽しそうに舐めた男は低い笑い声を挙げてその顔に冷酷な笑みを刻んだ。
回すような腰の動きで捕まえた獲物をいたぶってその瞳に映るのは確かに自分だけなのだと冷たい笑みに愉悦を含ませていく。
「―――――違うだろ?」
低いその囁きが。
「―――――"優しく愛して"、だろ?」
―――――笑い狐を追い詰める。
ギシッ、ギシッ。
「――――――・・・っ!くっ!」
―――――返答を待たずに激しく動き出した腰が逃げ場をなくすように卓の体を追いあげていく。
何かに縋ろうとする腕が頭の上でくくられれば、放置された片足で男の腰を打つ以外に抵抗できる術はなかった。
――――だが、その小さな抵抗にすら眉を動かすことなくただ男は挿入を繰り返すのだ。
ギシッ。
ギシッ。
「っ、んっ、はっ、・・・・」
ギシッ。
ギシッ。
―――――快楽に振り回される顔に突き刺さるその視線が。
じっとりと舐め上げるように卓の顔を焼く。
聞こえるのは。
荒い息と。
軋むベッドの音。
そして―――。
「――――――鳴けよ。ココ、好きだろ?」
「っっ――――っ・・・っ!!」
――――――無意識に隠すその場所を何度も突くタチ悪い男に否応なく卓の体は絶頂に達っしていく。
訪れる特大のその波に流されるように瞼はゆっくりと閉じられていった。
――――――しかし。
ギシッ。
隙の出来たその獲物の体を。
―――――冷酷な獣は逃したりはしない。
「っ!んっ・・・っ」
喘ぐ唇を強引に塞ぎ―――――。
ギシッ。
ギシッ。
―――――まだ終わりではないのだと。
「っ!くっ、・・・っ」
――――――飢えた狼は獲物に食らいつく。
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