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< 氷帝 >













「――――――――どこで拾った?」



―――――当然のようにやってきて当然のように褒美を強請って問答無用で主を押し倒したその男は、情事後のベッドに未だ居座ったままそう問いかける。






フ―――――――。






――――――ぼんやりと暗いその部屋に男の吐いた白い紫煙が舞いあがった。


ギラリと獣の目が光ったように思えたのは錯覚なのか。







「――――――"何"がだ」




―――――ふっと笑って静かに問い返した久居要はゆっくりと瞳を閉じると片手に持ったワイングラスから放たれるアルコールの香りを吸い込んだ。


暖かいシャワーを浴びた体は程よい疲労感を訴え、赤ワインの齎す酩酊感がその心地よさを助長する。






――――――ギュゥ。





そのままソファの背もたれに体重を預ければ小さな軋みがその重さに悲鳴をあげた。









「――――――アンタの尻を年中追い回してるあの忠犬だ」




―――――思った以上に近くで声が聞こえ、ゆっくりと瞳を開けてみれば、お決まりの黒のレザーパンツだけを履いた男が要の前に立っていた。







「――――――神田か」




小さく笑った要に男は不機嫌そうに舌打ちしてその黒い髪を掻きあげる。



―――――曲がりくねった髪がパサリとその強烈な片目を隠せば、何を考えているかわからないその怜悧な顔に影が差した。









「――――――気になるのか?」




"調べたのだろう?"




――――案にそう問いかけた要は微笑して男を見上げたが、逆光になったその表情は見えはしない。










「・・・・アンタが―――――ちッ」



何かを言いかけた男はやがて小さく舌打ちするとその体で要の視界を覆うのだ。






――――――ギュゥ。




二人分の体重を支えたソファが悲鳴をあげる。







「―――――――1か月振りだ。足らねぇんだよ」




―――――低いその声が不機嫌そうに耳元で囁かれれば、久居要はただ笑うしかない。









「――――――"何が"だ」






―――――問いかけに男はもう何も答えない。



ただ首筋を這うその舌の感覚に要は瞳をゆっくりと閉じた。








―――――カランッ。







やがて奪われた手首から落ちたワイングラスが絨毯の上に赤い染みを作って転がっていった。





End.

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