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―――――この学園の王様は我儘な男である。


もっと言えば不器用な俺様できっと世界は自分のために回っているとそう思っているに違いない。


むしろ『世界よ自分のために回れ』と考えていても何ら不思議ではないのである。









『―――――騎士様は今日もストイック♪』

『あの無表情さが・・・うっ、溜まらない!』

『むしろあのマットになりたい・・・』







―――――王様の愛する恋人はこの学園の密やかな人気者だ。


それもマニアックな生徒達にはプロマイドまで出回る人気振りなのである。


―――――普段、陸上部員の固い結束に守られて近寄ることも出来ない見るからに異質なそのファンたちはこの学園では暗黙の存在でもあった。









「――――――ちっ」




―――――無論、我儘な王様がそれを見逃すはずはない。


だから、校庭の脇に佇む密やかな集団に舌打ちした氷川亨はゆっくりと生徒会室の窓から離れて咥えていた煙草を灰皿代わりの缶コーヒーに投げ入れるのである。




ジュッ。





―――――ぎこちない二人の間には今だスムーズな会話が成立することはないけれど、ちょっと抜けている心優しい恋人を王様はそれはそれは大切に思っている。


それこそデートの誘いを口にするのに数か月かけてしまうくらい大切だから、下手な虫には容赦など必要ないに決まっていた。







「――――――相変わらずの過保護ぶり」






ガンッ!!





―――――だから、乱暴に生徒会室のドアを開けて消えて行く俺様の背中を類友の副会長は笑いながら見送るのである。








『王様の影あるところに騎士様の名前あり』



この学園の生徒達は誰だってこの常識を知っている。





――――不機嫌そうに廊下を歩く王様の姿に目を合わせないよう精一杯努力した生徒達が今日の犠牲者にアーメンと心の中で十字を切っていたことを空を愛する青年は気づいてはいないのだ。


なぜなら、大好きな人から齎される『帰るぞ』という横柄な言葉を宝物のように思っている青年は、今はまっすぐに大好きな空に向かって走っていくところだったからである。






End.

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