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< 確執 >



――――豪華絢爛なホテルのダンスホール。

色とりどりのドレスを身に纏った女たちは、品が良さそうに微笑みながら男たちを鋭く値踏みして、正装に身を包んだ男たちは己が野心のために顔を広げようと躍起になっていた。

おかげで、立ち並ぶ高級品の数々に舌包みを打つ輩は、ほとんどいない。




久居要はシャンペングラスを傾けながら、冷めた視線でパーティー会場を見やった。

くだらないと心の中で呟き、彼はパーティーへ来たことを後悔した。白々しくおべっかを使う男たちや全身を舐めるような女の媚びには、耐えられないものがある。

元々、力のある者に己からすり寄るような効率の悪さも、大勢相手にくだらない話を披露する愚かさも我慢出ない彼である。よっぽど、仕事をしていた方がよいと彼は思う。




―――微笑を称えたその裏で、本日いくつめかのため息を吐いた。


本来、彼はパーティーなどのイベントにはあまり参加しない。それは彼のスタンスに起因する。


彼のモットーは“先に出た杭は叩かれる”である。


つまり、焦って自ら動けば、叩かれる。相手にとって自分は下と見なされる訳だ。

それでは、ただの虎の威を借る狐ではないか。虎の威などいらぬ。




―――それが彼の意見である。


要は自分の陰険さと汚さをよく熟知している。彼のスタンスは、念入り相手の弱点を調べておき、いざと言うときまで相手の出方を待つことだ。そのため、“強い者には巻かれろ”という言葉は通用しない。要にとって重要視すべきは、顔の広さでもバックボーンでもない。



彼にとって大切なのは、効率とタイミング。


―――そして、いかにして相手にとって不可欠な存在となるかである。


相手が彼を必要とした時、タイミングよく、手を貸してやる。相手は彼に貸しが出来、彼は相手にとって頭の上げられない存在となる。後はどう料理するかを決めるだけでいい。もちろん、これは企業としての実力がなければ出来ないことだ。しかし、その努力を怠るほど、彼は甘くはない。

結果、パーティーに出席して他人様に頭を下げて回るより、将来現れるだろう誰かさんの弱点を探すほうがよっぽど効率的でおもしろい、となる訳だ。




――――――しかし、今回のパーティーには欠席できない理由があったのだ。


擦り寄る女たちをうまく手玉に取りながら、要は今日の主賓を一瞥した。

ホール中央に陣取った集団の中で、人垣に囲まれた男は豪傑な笑いで持ってその場を納めている。

彼の目がすっと細められる。




――――――久居家当主、久居譲。



彼の父親にして、久居グループのトップを行く男である。

傍には、長男の昌と三男の翔、長女のゆかりの姿がある。

要は女たちからうまく逃れると、ホール中央の集団に向かった。この難関を突破しない限りは、帰ることも間々ならない。後から難癖つけられてからでは遅いのである。



――――まるで円卓の騎士のような集団を前に、要は1人進み出た。


途端、兄弟たちから飛んでくる視線の刃を、毅然と姿勢を正し微笑を称えて交わすと、割れた人垣の間を優雅に進んだ。目的の人物は食えない顔で、要を見つめている。


彼は、ふわりと微笑んで見せた。



「――――お久しぶりにございます、父上。このたびは71回目のお誕生日とのことで、まことにおめでとうございます。父上に至っては、お元気そうで何よりでございます」



「・・・・・・・久居家の次男は、相も変わらず皮肉屋じゃのう。それも、さっさと帰りたいと見える」


護のニヤリとした冷たい笑みに、要は眉1つ動かさなかった。兄弟たちのしたり顔を横目に知りながら、沈黙の中、笑みを称えてこう告げた。



「―――父上も相変わらずご冗談がお好きなご様子で、私も安心しております」


皮肉の返しに護は鼻を鳴らす。それを冷たい視線で見つめながら、要はくだらない話に話題を変えて、その場をやり過ごした。




――――久居家と次男の確執は、社交界でも有名な事実だった。




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あきゅろす。
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