[携帯モード] [URL送信]

企画部屋
山姥切国広の話
山姥切国広は最初に審神者が選ぶ5振りの中の1振りだ。前任が選んだ彼はその所業によって生来の気質よりもやや歪んでいた。
いた、と過去形にすることができるのは死織が山姥切を変えたからで。しかも良い方向へと変えたのだ。………まぁ、客観的に見ると過保護なだけ、なのだが。

俺のことを唯一だと、言ってくれた。代わりなどたくさんいるのだと言われていた俺を、唯一の゙家族゙だと。
それは、形なき誓いだ。全身全霊で俺を守り、慈しみ、愛しむという誓い。だから俺は、俺自身を恥じることなく晒すことができる。
―――主に愛されていると、知っているから。

主が怪我をしたと、聞いた。乱入しようとした検非違使を相手取ったのだという。主の心の傷を引きずり出し顕現するその『異能』に、誰しも良い感情を抱いていない。それでも主は、それを使う。他にも戦う手段があるのに、自らを傷付ける。
「それは、なぜだ?」
主に直接問いかけた。主は戸惑ったように瞳を泳がせ、やがて目を伏せた。
「実感が、ほしいから」
「実感?」
「ここに生きているという、実感がほしい」
息が止まった。しばらくして再開はしたけれど、心臓がうるさい。
主は顔を上げ、薄い笑みを浮かべた。
「もしかしたら本当はみんな折れていて、俺は都合の良い夢を見てるんじゃないかって。この今は狂った俺が見せている幻覚なんじゃないかって。そう思うと、怖くて。
だから、痛みによる実感がほしい」
痛みがあれば、それは夢ではないから。
そう、主は笑った。
―――痛みによる実感は、痛みと共に苦しみを生む。主はそれに顔を歪めながら、それでも生きていることを感じていたいのだろう。俺達と生きていることを、信じたいのだろう。
守ると決めた俺達を、失いたくないのだろう。
「………主、」
引き寄せ、抱き締めた。驚いた顔をした主が「どうしたの?」と首をかしげる。
そっと腕に力を込めて、言った。
「俺は、温かいか?」
「ん?うん、あったかいよ」
「では、これでは実感にならないか?」
「!!」
主が顔を上げて俺を見る。いつもかぶっている布を取り、それで主を巻いてやった。
「俺達に体温があるのは、今ここで生きているからだ。主と共に、生きているからだ」
「……山さん、」
「主を置いて逝くことなどしない。俺達は、ここにいる。―――俺は、ここに在る」
「ふぇ、」
くしゃりと、主の顔が歪んだ。ぽろぽろと、その瞳から雫が落ちていく。
俺は一層主を抱く腕に力を込めて、泣き出した主の背中を撫でた。
……それからしばらく、主がひっつき虫になっていた。

愛しい我が主よ。
俺達は、いつでも共に在ろう。その隣で、傍らで、主と共に笑っていよう。それをあんたが望むから。俺達を、望んでくれるから。
だから、もう。

―――痛いことも苦しいことも、しなくて良いんだ。


     


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!