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企画部屋
万屋へ行こう・打刀組編
「主、荷物持ちならばこの俺が!」
「俺だってそれぐらいできるっつーの!」
「主どの、鳴狐も一緒に行きたいようです!」
「(コクリ)」
(カオス)

本丸の玄関先で喧嘩をしていた同田貫と長谷部を宥め、鳴狐のお供の狐を抱えて死織は万屋の中の雑貨屋の前に立っていた。
用件は、この前買えなかった残りのお守りを買うこと。トコトコと歩く死織の後を、同田貫達が追う。
「2人共、あんまり喧嘩しないでよねー。殴り合いならいいけど、真剣抜いた日にゃあひっぱたくよ?」
「申し訳ありません、主………」
「………悪い」
「うむ、許そう。なきくんも、見てないで止めてくれると嬉しかったな?」
「主どの、鳴狐は無口でありますのでそれは難しいかと………」
「そっか。それじゃ仕方ないね」
にこりと笑う死織に、鳴狐は軽く頭を下げる。謝罪を示すその態度に、彼女は頷いた。
「うん、なきくんも許す」
「ありがたき幸せ!」
「それにしても、お供くんは今日ももふもふだねー。あー癒される」
こんこんはなかなか出てきてくれないから、なでなでできないんだよね。
こんのすけの愛称を呼び、死織はお供を撫でまくる。根本的に癒しが足りていないのだった。
まぁそれもそうだろう、と同田貫は思う。怒濤の勢いでブラック本丸を押し付けられた上ブラック刀剣まで引き取っていたのだ、
気が休まる暇もなかっただろう。政府がなぜそんなことをしたのか、いまだにわかっていない。……でもまぁ、いずれお返しはきっちりするつもりである。首を洗って待っていろ、と思う同田貫だった。
「主、荷物ならば俺が持ちましょう」
「んーん、大丈夫。持たせて?」
「ですが………」
「君達を守ってくれる物だもの。俺が持たなきゃ意味ないじゃない」
ね?と笑って見つめられた長谷部は目を瞠って、ふわりと笑い主の御心のままに、と返した。が、死織が視線を外した時目頭を押さえていたのを同田貫は見逃さなかった。お前青江のこと言えないんじゃねぇの、とは思ったが口には出さない。
大事そうに紙袋を抱えた死織を見て鳴狐は軽く口を開くが、何も言わずに口を閉じた。
それには気付かず、死織は嬉しそうに見ていた紙袋から視線を外し、3人に笑いかけた。
「じゃ、お土産買って帰ろうか」
今日は何がいいかなーと言いながら死織が足を踏み出した瞬間、その前に女が立ち塞がった。
きょとん、と死織はその女を見上げる。
「……………?」
「………うん、あんたで間違いないわね」
今日は江雪を連れていないのね。
その一言に、刀達3人の顔から表情が消えた。

い や な よ か ん し か し な い 。
江さんの名前を出したってことは、絶対にあれと関係ある。あの、刀剣達呪い未遂事件。またの名を、゙お兄ちゃん゙ブチギレ事件だ。
呪詛というのは、相手の名を知り、顔を知り、初めて実行することができる。呪いの藁人形に写真を貼り付けるのは間違っちゃいないのだ。あの時は俺が相手の名を知らなかったこともあり、呪詛をかけるには準備不足。なんとか思い留まらせた。………今回は、どうなることやら…………(遠い目)。
「お姉さん、誰ですか?」
「そんなことはどうでもいいの。よくも私の弟を脅してくれたわね」
弟さんだったんですね。そして脅したのは本当のことだからぐうの音も出ないよ。ああ、穏やかな今日よ、さようなら。
そしてこんにちは、喧嘩の火蓋。
「あんたのことは監査課に報告させてもらったわ。いずれ審神者の座から落とされるでしょう」
「……………」
「これ以上罪を重ねないうちに止めてあげたのよ?感謝されこそすれ、恨まれる覚えはないわ」
いやあんたちょっと黙れ本当に(焦)。
後ろの3人が無言なのが心底怖いぃぃぃぃぃぃぃっ!!殺気すら感じ取れないのが逆に怖いぃぃぃぃぃぃぃっ!!
動揺を隠すため、俺はうつむく………が、これ、彼らには逆効果じゃないか………?
俺のライフカード、どこ!?
大絶賛混乱中の俺の耳に、女の人の声が入ってくる。
「あんたが審神者をやめた後、あんたの刀達は弟が引き継ぐわ。これは決定事項、刀達もそれで幸せってものでしょう」
「―――――」
煽るのやめて(滝汗)。………いやマジで(蒼白)。
ふぅっと意識が遠くなった俺の体を、誰かが支えてくれる。白い手袋は、長谷さんだ。
「俺達の幸せは、主のそばに在ることだ」
「主どのへの数々の無礼、許してはおけません」
「覚悟はできてんだろうなぁ?」
「……………」
みんな、声が低い。
………低いよ!怖いよ!俺泣いちゃうよ!?すでにいっぱいいっぱいで泣きそうだけども!!
ちらり、と女の人を見やれば、驚いた顔をしていた。
「………あなた達、自由になれるのよ?そんな小娘を守る必要はなくなるの。私の弟は最高の審神者よ、きっとあなた達も信じられると―――」
「俺達の主は、生涯このお方だけだ。最高の審神者?笑わせるな、初対面の人間を張り飛ばす奴のどこを信じろと言う」
「は………?」
あ、全部は知らないやつやこれ。自分が被害にあったことだけを誇張して伝えた訳やな。うわぁ、やり慣れてる感。同じ手口で何人が被害にあったものやら………。
と、現実逃避をしていたら、お姉さんの矛先が俺に向いた。
「あんた、どこまで卑劣なの!?刀剣達にありもしないことを吹き込んで………!」
お姉さんが言い終わらないうちに、深いため息が聞こえた。俺のすぐそば、ということは長谷さんか。
頭を軽く振り、彼は俺に満面の笑みを向けた。
「話が通じない馬鹿は放っておいて、行きましょう主。短刀達も首を長くして待っているでしょうから」
「………ウン、ソウダネ」
俺に頷く以外の選択肢があっただろうかいやない(反語)。
だって長谷さん、目がまったく笑ってないんやもん!怖いよ!!
ぎくしゃくと頷き、長谷さんの腕の中から起き上がって地面を踏みしめる。お姉さんが呆然としている間に立ち去ろう。うんそうしよう。
逃げるように(実際逃げたくてたまらない)
背中を向けた俺に、お姉さんが声をかける。
「………っどうせあんたも、審神者に夢を見た口なんでしょう。現実はね、そんなに甘いもんじゃないのよ!」
親の顔が見てみたいものだわ、こんな娘に育てるなんてどんな教育をしていたのか!
「……………」
―――親の顔、か。
「俺も見たいよ。もう一度、さ」
自嘲ぎみに呟いたその言葉を拾ったのは、
なきくんだった。

「主、は、悪く………ない」
静かに発された言葉に、その場にいる全員の視線がその方向へと向いた。女は驚愕の表情を浮かべ、死織はきょとんとしながら。
鳴狐は深呼吸を1つして、とつとつと話し出した。
話し終える頃には女は顔面蒼白になっていて、死織はそれを見て苦笑する。その後、女は平謝りを繰り返し、それに死織も頭を下げ続けるという無限ループが始まりかけたのだが、なんとか長谷部が止めた。
女は弟を審神者から引きずり下ろすことを誓い、監査課には勘違いであったということを知らせると約束してくれた。
「なきくん、ありがと」
「………何が?」
「さっきのとー、今話しててくれていることについて」
「………主。俺」
「ん?」
「主とちゃんと、向き合いたいって思った。
だから」
「………ん。少しずつでいいから、無理しないように」
「わかった」
頷き、鳴狐は目の前を見据える。死織はその横顔をしばらく見つめ、嬉しそうに破顔した。

ちなみに、帰った後この話をして、第二次呪い未遂事件が起こったのは、言うまでもない。

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あきゅろす。
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