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企画部屋
万屋へ行こう・粟田口編
「主、お使い頼んでもいいかい?」
「………メモお願いします」
「もちろんだよ。今回は誰と行く?」
「粟田口派つれてくんで、いきなり人いなくなるよ」
「!?」

ってことで、やって来ました万屋!今日はとってもいい天気です、太陽に焼かれそう!春なのに!
そして俺は決めている、今日こそは、甘味処でおやつを食べるのだと!!そのために、早くお使いを済ませてしまわなければ。………が。
短刀ちゃん達元気すぎて制御しきれませんでしたわー(泣)。お兄ちゃんズ、頑張ってるけど報われてない。でもこのままだとお店の人に迷惑だから、止めねば。
パンパン、と手を叩いて、注目を集める。
「ほらみんな、もうちょっと静かにしよう?
お店に来てる人に迷惑だから、ね?」
にこりと笑って言えば、それぞれ顔を見合わせて頷いた。うん、俺の゙弟゙達マジ天使。
「すみません、主殿」
「ううん、俺こそ早く助けなくてごめんねー。喰くんとなまずんもごめんよ、げんげんと厚くんもね」
「……主が謝る必要はない」
「そーだよ、主さんは気にしないで!」
「大将の手を煩わせちまって、逆にすまねぇな」
「大将は気にすんな!俺達は好きでやってんだからよ」
………本当に、うちの゙弟゙達マジで天使なんだけど。脇差だけど青さんばお兄ちゃん゙って感じなんだよね。見た目で判断すんな?わかっとりますがな。
軽く息を吐き、静かになった短刀ちゃん達を見て笑った。
「じゃあ、お使い始めようか」
『はーい!』
いい返事だ、うむうむ。

主殿が五虎退の手を引いて歩き出したのを確認して、後ろにそっと付く。私の隣には薬研が並び、油断なく周囲を警戒していた。―――主殿が頬に怪我を負い帰ってきたあの日、全身の血が下がったような感覚に襲われた。頭は煮え立っているのに、身体だけが冷たい。温度差にくらりと目眩を覚えた。
優しい彼女が害された。それを許しておく自分達ではない。けれど、主殿は仕返しを望まないから。だから、次こそ何もないように守らなくてはいけない。そうでなければ。
………自分達を受け入れてくれた彼女に、
申し訳が立たない。
「いちさん、難しいこと考えてるでしょう」
「………え?」
不意に主殿に断言され、一瞬呆ける。見下ろせば、少し困ったような顔で主殿は笑っていた。そして。
「生きていてくれれば、それでいいから」
その言葉に、息を、飲んだ。
「それ以上は望まないよ。………ううん、望めない。望むべきものは必要最低限にしないと、何が起こるかわかったもんじゃないからね」
「主、殿」
「そこにいて、笑ってくれればそれでいいんだ。それだけで、俺は救われているから」
―――ああ、本当に。
救われているのは一体どちらだと言うのか。今もなお感謝の念でいっぱいなのに、これ以上大切にされたら返しきれなくなってしまう。いまだに、お礼の言葉も満足に言えていないというのに。
「………主は、臆病だな」
「慎重と言ってよ、喰くん。さすがに俺、傷つくぜ?」
石橋は叩いて渡る派なの、ごめんね。
くすくすと笑う主殿を見ていて、つい、口からぽろりと言葉が滑り落ちた。
「どうして、笑っていられるのですか?」
きょとんと瞬き、それから、主殿は苦笑した。
「新しい゙家族゙がいるもの。いつまでも泣き暮れてるほど、被害者やってられないしね」
「………ですが、」
「人はね、何がなんでも立ち上がらなくちゃいけない時があるの。俺はそれが、あの時だっただけ。あの時立ち上がらなければ、今の俺はいなかった」
懐かしげに目を細め、主殿は笑う。空いている方の手を伸ばし、私の頬を撫でた。
「そして、立ち上がらなければ君達に向き合うこともできなかった。守ることもできなかっただろう。それだけは、嫌だったんだ。
何かを………誰かを守れないのは、一度だけでいいんだよ」
だから、と彼女は笑う。この上もなく優しげに、慈しむように笑う。
「君達の笑顔で俺は救われているよ。もっと自信を持っていいんだ、君達は俺の゙家族゙
なのだから」
そうでしょう、゙いちお兄ちゃん゙?
小首を傾げ、同意を求めるように声が弾む。
その幸せそうな笑顔に、頷く以外の選択肢など見つからなかったのだった。
その後、念願の甘味処でぜんざいを食べ、さらに幸せそうな顔になったのは、また別のお話。

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あきゅろす。
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